――3人の友情の発露も独特ですね。拳固で殴り合ったり、団子を取り合ったり、家を訪ねて枕元で皮肉を言いながら事件の事情を聞こうとしたり……。
畠中 シリーズの最初に考えたことは、麻之助たち3人が江戸のどこでどんな暮らしをしていたかということです。かれらの住むところの状況をまず決めてから、その毎日の暮らしを組み立てていきました。もしここら辺に麻之助が住んでいたら、こんな感じで清十郎のところに遊びにゆくだろう、というような……。
――そこから3人の友情が自然に育まれていったのですね。
畠中 はい。
大きな変化の理由は
――本作ではシリーズ中最大の変化が起こります。内容に触れてしまうのであまり詳しくはうかがえませんが、今回この大きな変化を物語の中にあえて起こしたのはなぜだったのでしょうか。
畠中 「しゃばけ」シリーズは時間的にあまり動かない曖昧な世界なので、こちらのシリーズははっきり時間を進めようともともと思っていました。どういう形で時間を進めるかということを考えて、今回……あまり言うと内容が分っちゃいますね(笑)。
――答えにくいインタビューになってすみません(笑)。
畠中 少し内容に触れてしまうかもしれませんが、ある資料を読んでいて、江戸の後期に大名家や旗本家で養子をとるケースがあまりにも多くなることに驚かされたんです。つまり「ここまで死ぬのか」というくらい、次々に跡継ぎが亡くなっている。
――そうだったんですか。
畠中 はい。さらに調べてみると、跡継ぎ自体が生まれなかったというケースが、資料を読むと多くて……。比較的平和だった江戸のこの時期に、跡を継ぐということがとても揺らいでいたことを、この資料を読んで、今回の作品の中にぜひ入れたいと思いました。一見平和なところは今と似ているけれど、違うところは全く異なる世界があったことを書いてみたかったのです。
――本作には6つの連作短編が収められていますが、それぞれの作品の中に、1冊の物語全体の結末のための伏線がちりばめられていますね。たとえば「おさかなばなし」の、妻のお寿ずから子が出来たことを告げられて「日の本で一番優しい町名主の跡取りに化けてしまった」麻之助や、幼い息子を探し続ける七国屋松兵衛の姿は、後のことを考えると、とても強い伏線になっていると思います。
畠中 「おさかなばなし」自体は何かで「置いてけ堀」の資料を読んで考えついた作品です。私は一応一所懸命、プロットを考えてから書き始めるのですが、書き進めてゆくと必ず違和感を覚えて、結局何回も修正することになります。書きたい題材や人物をどんどん書いてしまう癖もあって、うっかりすると短編なのにえらく長くなってしまう(笑)。今回も長くなってしまったものは、後から削りました。
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