福田 僕が総理の補佐に就いたとしたら、常にモニターで首相の発言をチェックしていて、「みぞうゆう」と読んだら、「やってしまった!」と、ただちにスピーチを書きますね。そして、次のぶらさがりの会見の時に、「この歳になってまで、漢字の読み間違いをするのは、本当にお恥ずかしい限りです。今でも時々、日本橋本町を『にほんはしもとちょう』と読んでしまう。日本語は難しいですね」と話してもらいます。揚げ足をとられないうちに、すぐ対応します。
田崎 そうです。謝るか、笑い飛ばすか、すればよかった。
福田 アメリカのテレビドラマ『ザ・ホワイトハウス』のロブ・ロウのように、常に大統領のスピーチを書くような人は日本にいないのでしょうか。
田崎 官邸にはいないですね。
福田 麻生さんがタクシー運転手に会いに行く時には、「“景気はどう?”という聞き方は絶対ダメです」、ハローワークの若者と話す時には、「“何をやりたいか決めないと”などの言い方はダメです」と、先回りして、言ってはいけない言葉をインプットする。失言したら、すぐさま訂正のスピーチを書く。そのような存在が必要かもしれません。
田崎 実際、福田さんを雇えないかという話がありました。
福田 ええ。フジテレビを通して、ある政治家からスピーチを書いてくれないかというお誘いがありましたね(笑)。
「政治家の能力が下がっている」(田崎史郎)
田崎 足かけ六年首相をつとめた小泉純一郎元首相は、短期間で次々と首相が交代する近年の日本では、最も成功した首相といってよいと思います。彼の強さは「言葉」でした。「官から民へ」「改革なくして成長なし」といった短いひと言に、自らの主張をこめて、国民に伝えることができた。政治家にとって、いかに言葉が大切かわかります。
福田 『政治家失格』では、その小泉さんをはじめ、もっと前の、田中角栄、梶山静六、小沢一郎ら、田崎さんがとことん取材をした政治家たちが登場します。しかし、これはあえて言うのですが、私の世代になると、あの自民党の派閥全盛時代というのは、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、国民にとって政治がよくわからない時代でした。もっと言えば、なんとなく嫌いな時代です。田中角栄には、命をかけて国民と向かい合う「風圧」力があり、竹下登には、国会と内閣をフル回転させる「運用」力があったと書かれていて、それは理解できる。しかし彼らのような政治家が、今欲しいかというと、NOですね。
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