別冊文藝春秋

インチキとわかっていてもすがりたい 「似非科学」にどう勝つか?

文: 朱野 帰子

朱野帰子「賢者の石、売ります」

 科学ファン、という人たちがこの世には存在する。

 ロケットの打ち上げがあれば種子島まで駆けつけ、深海潜水調査船の生中継があれば十何時間もパソコンに貼りつく。科学者の連載や講演は欠かさずチェック。かく言う私もそのひとりだ。

 ところが、連載をはじめるにあたって、編集者さんから提案されたテーマは「似非科学」だった。それは科学の皮をかぶった偽物。科学の敵だ。考えこんだ私の心を見透かすように編集者さんは言った。「似非科学と戦う話ではどうでしょう」。ちょっとだけ心が動いた。

 でも勝てるものなのだろうか? 敵は手強い。私の友人(私よりもディープな科学ファンである)は「似非科学からはひとりずつしか守れない」と語った。「身近な人を救うのがせいぜいだよ」……じゃあ家族を救おうと奮闘する話にしたらどうか。でも家族からしたら迷惑な話かもしれない。人間、インチキだとわかっていても、そういうものにすがりたくなることだってある。そういう気持ちをまったく理解できない主人公だったら? そんな風に物語が組み上がっていった。

 科学を偏愛する主人公。彼が日常にひそむ似非科学と戦いながら、どう成長していくのか(あるいはまったく成長しないのか)、読者のみなさんに温かく見守っていただきたいと思う。最後には科学が勝利すると、すくなくとも著者の私は信じている。

「別冊文藝春秋 電子版3号」より連載開始

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました朱野帰子

定価:本体770円+税発売日:2019年11月07日


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