主な登場人物
羽嶋賢児……大手家電メーカー柴田電器に勤める31歳。実家暮らし。調査会社から転職して4年目。課長候補として商品企画部に来るが、この異動は“島流し”と噂されている。
蓼科 譲……賢児の幼馴染。小学生の頃から成績優秀だった。研究者への道を歩み、現在は地球惑星科学者の卵。
小森美空……賢児の姉。現在第一子の出産を控え、里帰り中。
寺内梨花……賢児の同僚。商品企画部に所属していて、美顔スチーマーを企画、そこそこヒットさせた。
桜川誠一……柴田電器の美容家電事業部長。賢児を商品企画部に“島流し”にした張本人。
桐島紗綾……賢児の元彼女。出版社の編集者。賢児とは別れたが、美空とは今でも仲が良い。
1
「僕は科学を信じています」
という書き出しの作文を教室で読みあげた時、賢児(けんじ)は小学六年生だった。
「科学はどんどん進んでいます。今年の夏には、日本人初の女性宇宙飛行士がスペースシャトルに乗って、宇宙に飛びたつことになっています。でも、うちの姉はいまだに科学のことをなんにも知りません」
ここから先は、教室に座っている同級生にとってもセンセーショナルな内容のはずだ。 でもどうしても伝えなきゃ。でないと美空(みそら)のアホを助けられない。
事情を知る譲(じょう)がうしろに座っているのが心強かった。
読み終わったとき、教室は海の底みたいに静かだった。精子とか卵子とかいう言葉にニヤニヤしていた男子たちは、途中で話についてこられなくなったらしく、黙りこんでいる。女子たちは動かない。気持ち悪い、と涙ぐんでいる女子がひとりいた。担任は五秒くらい迷っていたが、何も言わずに、次の子を指した。
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