地表に放射状に葉をおいた食用植物が,その緑いろの円をたてにもよこにもおびただしく並べている冬の畑を,あきれる速さでうねりぬけて過ぎたものがあった.ある種の野生の小動物がそんなふうな走りかたをすると聞いたことがあって,形も大きさも色もまったく見わけられない速さだったにもかかわらず,それが風ではなく,爬虫類ではなく,獣だったとわかった.
走井(はしりー)が,できるだけ速く走るものになろうとしてそんな小動物に生まれかわり,いま走って過ぎたのだという気がした.
感受体のおどり
黒田夏子・著
定価:1,850円+税 発売日:2013年12月14日
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