猫というのは、ぺットといってしまえばそれまでだが、人間社会の隙間のようなところで、独自の生き方を曲げることなく生きているように見えて面白い。野良猫ともなれば、必ずしも楽な暮らしばかりとはいえないだろうが、ほとんどは人間を利用したり頼ったりして、そのくせなんとなく勝手気儘に生きているように見える。
以前はねずみ退治という、お返しもあったのだが、いまやほとんど忘れられているから、専ら可愛がられ役になって澄ましている。そんな猫の暮しぶりを、良しとするものは猫好き、そうでないものは猫嫌いになる(らしい)。私は好きでも嫌いでもないが、なんとなく野良猫には、けなげさを感じることがあって、いわば応援団の1人かもしれない。
窮屈な人間社会のなかで、そういう自由な世界を持ち続けている猫だからこそ、ときに小説の主役を振られたりもする。こうして書かれた、猫文学とでもいいたいタイプの小説は、東西にわたってかなりあるようだ。
猫の目を借りて人間社会を活写し、戯画化して諷刺したり、あるいは猫社会を借りて、実は人間を浮き彫りにして見せたりするものだが、前者の代表にはいうまでもなく、漱石の『吾輩は猫である』があり、後者の代表として私がすぐに思い浮ぶのは、ポール・ギャリコの『ジェニィ』だが、もちろんほかにもあるだろうと思う。
さて、この『旅猫リポート』も、新しく猫文学の仲間に加わった1冊だが、これまでにない独特のスタイルを持っている。有川浩という作家は、変幻自在で作品ごとに新機軸を見せるから、この作品にかぎったことではないが、話の冒頭で、まず『人、猫に遇う』、あるいは『猫、人に遇う』という場面があり、この出遭いの事件は実にうまい。そんなことがあったなら、この人とこの猫が強い絆で結ばれるのも当然かな、と思わせられる。この小説にとっては大変重要なところだが、ごくさりげなく語られるので、おそらく猫嫌いの人でも、ここは納得してしまうのではなかろうか。
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