こうして猫と人の結びつきの強さを、しっかりたたきこまれたところで、題名どおり、人と猫の旅が始まり、その旅を猫がリポートすることになる。といっても猫の独白部分は要所に置かれるだけで、大部分は客観描写の文で語られていく。
いわばファンタジー形式とリアルな現代小説のスタイルが入り混じるのだが、全く違和感はない。もともとファンタジーはリアリズムの延長線上にある形式だから、こんな試みがあっても不思議ではないが、読者に伝える情報 の、量と時期を誤ると混乱を招くだろうと思う。もちろんこの作者にそんな 手抜かりはなく、途中で引っかかることなど一切ないままに、快く物語にひきこまれていく。
人間の主人公は「サトル」というが、私事ながら私の名も「さとる」で、これは読んでいて身につまされる。ただ、さとる君(小生)は、サトル君ほどの優しさや生真面目さを持ち合わせていないので、感心したり反省したりしながらの読書だったが、やがてそんな雑念は消えていって、話にのめりこんでしまった。
旅といっても、この旅はただの旅ではない。サトル君にはある理由があって、仲のいい友達を車で訪ねてまわるのだが――もちろんリポート役の猫もいっしょに――、彼には実にいい友達がいて、どこでも歓迎される。これもサトル君の人徳あってこそと思う。
こうしたことがさりげなく語られ、しかし、短い滞在のうちに、それぞれの家にはそれぞれの事情があり、問題を抱えていることがわかる。こういうところがこの作者の筆の力で、猫文学とはいいながら、さまざまな人間をくっきり浮かびあがらせて、読者をひきつけていく。
こんな構成が続くと、同工異曲になり易いはずだが、そうはならない。いく先々で新しい展開があり、そのうえに猫の立場と人の立場とが交差して、不思議なリアリティーを生む。やがてこの旅にかくされた謎が、次第に浮き上がってくるのだが、人(サトル)の優しさと、それに応える猫の心情とが重なって切ない。
以前、どこかで重松清氏が、有川氏を『心意気』の作家、といっていた。私も賛成である。この『旅猫リポート』も、優しいサトル君の優しい心意気と、やや利かん坊の猫の、一途な心意気が一つになって、大きな感動を呼ぶ。
猫好きな人はもちろんのこと、猫嫌いを自認する人にも是非一読を勧めたい。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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