世間を騒がせた平成の大事件やその登場人物について、新書にまとめてもらえませんか――。文藝春秋の編集者のMさんにそう依頼されたのが、本書を起草するきっかけだった。
振り返れば、平成もあっという間に時が過ぎ、はや25年。四半世紀も経っているのだから、とうぜん事件も数え切れないほど起きている。
そのなかでどの事件の誰を採りあげるか。あらかじめMさんが用意してくれたリストを手にとり、ふたりで協議した。リストアップされていたのは、元号が平成に改まって間もなく捜査が本格化したリクルート事件から最近の小沢一郎の政治とカネ事件にいたるまで、政治家が絡んだ汚職や大企業の経営者たちの背任を中心に、20件を超える。
「へえ、こんなにたくさん事件が起きているんですね」
と妙な感心をしてしまった。よくよくMさんのリストを見ると、私の過去の取材活動や執筆した記事を調べてくれたのか、多くの事件に馴染みがある。いわゆる政界疑獄、経済事件がほとんどだった。
本書で描いた平成の経済事件は、どれもが話題になったものばかりだ。こうしてズラリと並べるだけで、取材や記事を書いた当時の記憶が蘇り、懐かしくなる。Mさんと相談の上、紙幅の都合上、リストのなかからいくつかの事件を落とし、1つの章に複数の事件を入れてまとめる方針にもした。そこからいよいよ執筆に入った。
なにしろ25年分の事件だから、メモや資料をひっくり返すだけでも、けっこう難儀だ。まずは、週刊新潮編集部で「マネー」という経済事件コラムを担当していた時代に、リクルートの江副浩正をインタビューした記事のスクラップを発見。埃に咽せながら、当時の大学ノートやメモ帳をめくっていると、取材時の光景が鮮やかにフラッシュバックした。
最近は、できる限りパソコンでファイル化して資料を整理しているが、平成の最初の頃の資料は紙のまま、黄ばんで書庫に眠ってきた。例外は野村證券の田淵節也くらいで、たまたま昨年に起きた増資インサイダー事件で関係者に取材していたので、ある程度の整理がついていたが、その他は大半が古い取材メモや資料が頼りである。
で、書棚から事件ごとの資料を見つけては嬉しくなって、じっと見入ってしまう。そんなことの繰り返しだから、パソコンに向かってもなかなか筆が進まない。
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