連鎖は偶然ではない
そうして資料と格闘しながら、1つ1つ事件の登場人物たちを描いていった。すると、事件の連動性に気づいた。当然といえば当然だが、事件捜査には端緒がある。検察や警察は過去の事件でつかんだ捜査情報や疑惑を長いあいだ温め、のちの摘発につなげていく。当局によるそのネタの保存期間が、驚くほど長いのである。
事件の連鎖の例としてしばしば語られてきたのが、1992年の東京佐川急便特別背任から翌九三年の金丸信脱税、さらに九四年までのゼネコン汚職だ。そして東京地検はそこから、2011年に小沢一郎の政治資金規正法違反事件へと爪を伸ばした。金丸事件から数えて、実に20年後である。
こうした事件の連鎖は、決して偶然ではない。取材資料や記事を読みこんでいくうち、それを確信した。日本長期信用銀行という国策銀行をつぶしたといわれたイ・アイ・イグループの高橋治則は、バブル時代の放蕩経営の末に摘発された。ところが、バブルを退治したはずの旧大蔵省のエリート官僚や日銀マンたちも、実はそんなバブルの破廉恥な宴に酔いしれていた。あげく接待という新たなパターンの“賄賂”を受け取った、とやり玉に挙げられる。その官僚たちを宴に引き入れたのが、高橋治則である。
住友銀行の天皇や2兆7千億円も借金した料亭の女将、不動産神話を背景に成り上がった地上げの帝王やファンドバブルの寵児……。本書で採りあげた平成経済事件の怪物たちは、いずれも魅力的だった。
私は雑誌育ちなので、事件を一皮めくって、世の中があっと驚く意外な出来事を探す癖が抜けない。実際、事件を正面からレポートするだけではなかなか解明できないことが多く、事件の主役が舞台裏で見せる素顔が、ことの本質を物語っているケースも少なくないので、ついそこに注力してきた。
平成経済事件の怪物たちは、その姓名を誰もが知っているし、おおよそ事件の中身も、広く知れ渡っている。しかしその実、彼らの歩みについては、いまだ理解しがたい謎の部分も少なくない。そんな事件に目を凝らすと、これまで彼らが筐底(きょうてい)深くに秘してきた知られざる素顔が浮かんだ。(敬称略)
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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