──貫井さんの作品というと、過酷な状況を描かれることが多いという印象がありますが、この『空白の叫び』は、特に過激な描写が多かったように思います。
貫井 たとえば、セックス描写なども、今までは直前で場面転換するような、ぼかした書き方をしていたのですが、そこも逃げずに徹底して書いてみようと、今回はストッパーをはずしました。その分、彼らの心理と向き合う作業は、身を削るような辛い作業になりました。だから、同じ時期に書いていた『追憶のかけら』や『さよならの代わりに』に取り掛かるときは、楽しく思ったのを覚えています(笑)。
──これも、貫井作品に共通することですが、登場人物の書き分けが際立っていますね。特に『空白の叫び』では、頭脳明晰、容姿端麗なのに、現実感に乏しい葛城(かつらぎ)、退屈な日常のなかで暴力衝動を抱える久藤(くどう)、複雑な環境で育った孤独な少年の神原(かんばら)と、主人公の三人の造形が大変印象的です。
貫井 三人には、当初からコントラストや関係性の違いをつけて、意図的に違う方向性を持つように設定しました。たとえば、葛城は、終始、変わらない存在として。久藤と神原は、それぞれ読んでいくうちに、読者の印象が、冒頭と逆に変化するような存在として想定しました。葛城には、「持つことの幸せ」への疑念が投影されています。神原には、犯罪を犯す・よくわからない・少年という一般的な少年のイメージを託したつもりです。久藤は、最初もっとチンピラのような、考えもなく犯罪を犯した少年にするつもりでしたが、葛城と神原の物語に負けないよう、良心ゆえに悩むという人物造形になりました。少年犯罪と更生への期待という点では、最終的に久藤はテーマを一番体現している主人公になりましたね。また三人に、まったく救いがないわけではなく、たとえば、途中で出てくる、三人の相手となる女性たちも、大きい存在になっていると思います。
──貫井さんご自身は、少年法、そして少年たちの更生の可能性についてはどのようにお考えですか?
貫井 少年犯罪では、更生を目的として少年院に入るため、厳密的な意味で、“罪”ではありません。しかし少年院では、犯罪を犯した少年を罪と向き合わせる指導が必ずしも実施されているわけではないですし、社会全体が情報を共有すべきなのに、それが裏に隠されてしまっているので、社会に出た少年たちが「本当に更生したのだろうか」という疑念をつねに世間から抱かれることになる。だから、彼らに白い目を向けてしまうという問題点があると思います。まず、罪に向き合えるような環境をつくること。そして、少年院で何が行われているのかを、もっと明らかにすることが大事なのではないでしょうか。
──ラストには、貫井作品ならではのサプライズもありますね。貫井さんの作品には、毎回びっくりさせられることが多いのですが、そういうサプライズは、いつも意識してお書きになっているのですか?
貫井 ミステリーとはそういうものだと思っていますから、「ない方がよかった」と言われると困ってしまうんです。ただ、トリックより心理描写を評価されるということは、結局ミステリーには向いていない体質だったのではと、最近になってようやく気づきました(笑)。今後は、自分のストロングポイントである心理描写が生きるような作品を、より意識的に書いていこうと思っているところです。