──まずは、先日の『乱反射』での日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』での山本周五郎賞と、連続の受賞、おめでとうございます。ご自身では、今回のデビュー十八年目での受賞ラッシュについては、どのようにお考えですか?
貫井 今までと、書き方を変えたからでしょうか。
──書き方の違いとは?
貫井 減点法に強い書き方ですね。それまで、弱いところがあってもそれを補って余りある美点があれば良しという考え方で、自分も読んでいたし、書いていたんですが、自信を持って送り出した『夜想』と『空白の叫び』が、思いのほか評価が低かったので、今までのやり方ではダメなのかもしれないと気づいたんです。それで、たとえばどんでん返しにこだわって、無理をして書いていたところを、無理をしないようになりましたね。だから、以前よりいじわるな目で、自分の作品を読み返すようになりました(笑)。ただ、『夜想』と『空白の叫び』には、ウィークポイントもあるんですが、それを上回るものがあると、今でも思っています。
──殺人を犯した少年たちの心理という難しい題材に取り組まれた『空白の叫び』は、貫井さんにとってこれまで最長の二一〇〇枚と大きな作品になりました。
貫井 小説は、スポーツとかと違って、自分の能力を全部出し切るということが難しい対象だと思うんですが、この『空白の叫び』については、書き終えた後にすべてを出し切れたと言える作品で、それまでの作品は『空白の叫び』を書くための練習だった、書き終えたときに「これで筆を折ってもよい」という思いすら抱くほどの大きな達成感がありました。だから『空白の叫び』は、これまでの集大成と言ってもいいと思っています。
──少年犯罪をテーマにした作品は過去にもたくさんありますが、それぞれの殺人へといたる心理的な経緯が、これほどまで圧倒的で克明に描かれた作品はないと思います。
貫井 以前、『殺人症候群』という作品で、正当に裁かれない犯罪の一つとして少年犯罪を取り上げました。ただ、そのときは加害者側からの視点が入れられなかったので、つぎは、加害者側から描いてみようと思ったのが、今回の作品を書くきっかけになりました。よく、実際の事件でも、“心の闇”という言葉で、一言で説明されてしまうのですが、衝動的な行動に出る本当の背景は、理解も説明もされていないことが多い。犯罪者の心理を自分自身が解き明かすために、その衝動なり動機を、まず理解して言葉にするために小説として書いてみたかったんです。結局、枚数が増えたのも、その言葉に出来ない部分を描こうとしたからでしょうね。
──六年間の長い間、連載されていると、不安になることや、途中で考え方やテーマが変わるようなご苦労はありませんでしたか?
貫井 取材の最中に、少年法の改正があり、題材が古くなるのではという懸念を、担当編集者の方から指摘されたのですが、結果的に古くはならなかった。もっとも、扱っているテーマは、普遍的で価値も変わらないものですから。テーマも結末も、自分が当初から考えていたとおりに書くことが出来たという点でも、書き始めからまったくブレのない作品でした。
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