- 2010.12.20
- 書評
知日派二大巨頭の「生身の言葉」
文:春原 剛 (日本経済新聞社国際部編集委員)
『日米同盟vs.中国・北朝鮮――アーミテージ・ナイ緊急提言』 (リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 著)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
ただ、その本家本元は米国人だけによる議論であり、日米同盟に対する日本人の心情や複雑な思い、歴史的経緯などまでは包含されるに至っていない。そして、あくまでも二十一世紀の国際環境などを踏まえて、「同盟、かくあるべし」という現実論に根ざした意見が中心となっている。
それに対して、本書ではできるだけ日本人の視線、考え方、感情や歴史認識などを二人に直接説明し、「生の日本の声」を聞いてもらった上で、彼らの考えや反応を引き出すことを心がけた。我々日本人が胸に抱いている言葉に出せない思いを、正直にありのままにぶつけ、彼らの肉声、あるいは「生身の言葉」を紹介できたのではないか、と自負している。
沖縄米軍・普天間基地の移設問題を巡り、ぎくしゃくした日米関係だが、その沖縄で実際に起こった悲惨な日米戦、その後の広島・長崎への原爆投下など、日本人には今も忘れ難い多くの「負の記憶」をこの日米同盟は内包している。鳩山由紀夫前首相が口にしていた「対等な日米関係」という言葉も、そうした日米同盟の「過去」と決して無縁ではない。そこのところをどう感じ、どう咀嚼(そしゃく)した上で、ホワイトハウスやペンタゴン(国防総省)の高官は実際の対日政策を立案しているのだろうか――。
その疑問に答えてもらうのは、この二人をおいてない、とかねてから思っていた。幸いなことに、そうした筆者の考えをアーミテージ、ナイ両氏とも極めて前向きに受け止めてくれた。背景には、かねてナイ氏が指摘していたように「日米同盟体制について、日本ではあまりにも公に対する広報活動が欠けている」という懸念を二人とも抱いていたことがあるように思う。
尖閣諸島沖で発生した衝突事故を契機に膨張圧力を強める中国、金正恩新体制に向けて、ウラン濃縮施設公開、韓国への砲撃など瀬戸際外交を展開する北朝鮮、メドベージェフ大統領が国後島訪問を強行したロシア……こうした危険な隣国を前に日米同盟の真価が問われている今こそ、じっくりと本書を読んでいただきたい。
十年以上に及ぶ滞米経験を踏まえ、日米同盟についてつくづく感じているのは、戦後六十年を数える日米同盟体制が実はいまだに一握りの人間の手によって支えられているということである。言い換えれば、この同盟体制はいまだに日米双方のマジョリティーから十分な理解も信任も得ていない。民主主義国家において、多数派の支持を得ないものが永く存続し得ないことは多くの歴史が証明している。そして、その「支持」は幅広い層による、厚みと深みのある理解があって、初めて成り立つものだ。本書には、そんな問題意識を、アーミテージ、ナイ両氏とともに精一杯込めたつもりである。
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