――侍従長として両陛下にお仕えした日々を綴った回想録『天皇家の執事 侍従長の十年半』が、このたび文庫化されました。御所における両陛下のご日常から、災害のお見舞い、宮中祭祀、外国ご訪問でのお姿に至るまで、貴重なエピソードが紹介されています。
渡邉 両陛下のお傍にいると、日常のふとした瞬間に「陛下はこういうことを考えておられるのか」と、気付かされることがあるんですね。たとえば、宮崎の西都原古墳群を訪ねられた時のこと。40年以上前に農民の足下が陥没したことを切っ掛けに発見された古墳についてご説明を受けられると、陛下は真っ先に「その農家の人にけがはありませんでしたか」とお聞きになったのです。普通すぐには、そこまで思い至りませんよね。このような瞬間に陛下の本当のお人柄が表れているのだと思います。
もちろん、陛下のお考えやお気持ちはお言葉などを通じて国民に伝えられています。ただ、「国民の幸せを願う」「国と国民のために尽す」ために具体的に何を実践されているかまでは、なかなか伝わりません。国民一人一人のことを考えておられる真剣なお姿を、多くの方に知ってもらえたらという思いで、具体的な描写を積み重ねながら書きました。
――陛下を常に支えていらっしゃる皇后さまのお姿も印象的です。
渡邉 皇后さまがなさってこられたことには、私などには書き尽くせないものがあります。これまで様々な辛い経験もされましたが、それらをくぐり抜けてこられて、いまでは“国母”と呼ばれることも多い。その奥深く、かつ繊細なお人柄の片鱗だけでも書けただろうかという思いです。
陛下は節目節目の会見で皇后さまの存在について触れられていますが、御成婚50年となる平成21年の会見では、感謝の言葉を述べながら声を詰まらせておられました。日々のご生活を拝見してきた者として、本当のお気持ちをおっしゃったのだなと感じたものです。
――陛下が皇居内で時速25キロの制限速度を厳密に守って運転されるお姿や、机の引き出しに片面使用済みの紙が入っていて、パソコンでの印字にお使いになっているエピソードなどは、初めて知る読者も多いでしょうね。
渡邉 陛下には、少年がそのまま大人になったような純粋さや生真面目さを感じるときがあります。そこに敬愛の念を禁じ得ません。様々なお姿が積み重なって、国民との信頼関係が生まれているのだと思います。
――東日本大震災では、7週連続で被災者をお見舞いされました。本書では「両陛下と東日本大震災」という文庫版の前書きもご執筆いただき、震災直後の3月14日にお会いになった際のお話にも触れられました。
渡邉 震災の3日後ですから、被害の全体像はまだ見えませんでした。ただ、私が感じたのは、これだけの大災害を前に「被災者のためにできるだけのことをしたい」という両陛下の大変強いお気持ちでした。御所は電気がほとんど消され、応接間にはロウソクが灯されていました。節電対策はもちろんですが、これも電気のない中で暮らす被災者に心を寄せたいというお気持ちの表れだと思いました。
お見舞いのスケジュールは確かに過酷でしたが、そのように形に表れたこと以上に、被災者1人ひとりと向き合うということが大変だったのだと思います。私も、新潟県中越地震直後のお見舞いに随行しましたが、両陛下が話しかけられると、皆さん泣かれるわけです。今回も家族を亡くし、家が津波に流された被災者を前に、どうすれば1番力づけられるのかを考えるだけでも大変です。それを毎週続けられたのですから、お疲れになったことと思います。
――単行本では触れられなかった「皇室の将来像」についても、提言を含めて加筆していただきました。
渡邉 皇室の将来といっても、いろんな課題がありますが、その中で1つだけ、早く手を打たなければ近い将来の皇室の活動に支障を来たす問題があります。それは、女性皇族が結婚なさると皇族の身分を離れるということです。現行の皇室典範をそのままにしておくと、女性皇族が結婚なさるたびに皇籍離脱され、皇室には悠仁さまお1人しか残らないことになります。
そこで、皇室典範を手直しして、例えば、内親王さまが結婚されても新しい宮家を立てて皇室に残られることができるようにすることを提言しています。この問題は少し考えてみれば誰にでも分かることですし、私だけでなく有識者の方々が同様の解決策を提案されています。具体的に動き出す切っ掛けがなかなかありませんが、眞子さまも成人になられましたし、あまり先送りできる話ではありませんね。
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