知っているようで知らない書店のことについて、全国各地の書店員さんが顔出しで回答する「10人の書店員に聞く<書店の謎>」。今回は、本で出会った素敵な言葉について答えていただきました。
本で出会った素敵な言葉を教えてください。(愛媛県 20代 女性)
内田剛(三省堂書店神田神保町本店)
原田宗典さんのエッセイに「観光客はカメラを持っているだけだが、旅人は哲学を持っているように思えるのである。」という一節があって、いたく感動しました。(『笑ってる場合』原田宗典/集英社文庫/P47)
このフレーズを拝借して、「書店員と書店人は違う。書店員は普通の本の販売員で、書店人は哲学を持っている。」と、言い換えています。日々、時間に流されますが、流され方を変えたいと。
岡一雅(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店)
「街道は晴れていた。竜馬がゆく」(『竜馬がゆく』8巻 司馬遼太郎/文春文庫/P369)
新政府の財政を任せるべく、三岡八郎(由利公正)を越前福井へ貰いに行く坂本竜馬の姿を現した一文です。晴れ渡った青空の下、颯爽と歩みを進める竜馬の姿が脳裏に浮かびます。この一文が私達の竜馬像を決定付けたのではないか、と思える位に格好いい(言葉と言うか)文章です。
富田結衣子(文教堂書店代々木上原駅店)
純粋に「言葉」というよりは、とても好きな文脈があるので、それを紹介させて頂きたいと思います。
この本の冒頭の部分、「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。/世界ときみは二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。」という書き出しで始まる文章に出会ってから、落ち込んでいる時も勿論その逆の時も含めて、「世界」という言葉の新しい意味を知ったような気がしました。
文章自体も大好きで、このなかにある「たとえば」の使い方は本当に素敵だと思っています。
それ以来、ふとした時に思い出したり読み返している本です。
主に自分への戒めを込めて。
野坂美帆(紀伊國屋書店富山店)
「神は細部に宿る」書店業界で働く先輩に教わった言葉です。その後ビジネス書などでも見かけることがあり、有名な言葉と知りました。細かなディテールを疎かにしては全体の美しさは得られない、という意味です。私は非常に面倒くさがりな性格なので、仕事も意識していないとすぐに手を抜きそうになったり、これでいいや、と見切りをつけてしまいそうになります。そんなときはいつもこの言葉を頭に浮かべて、仕事は丁寧に、と念じます。仕事を細かくチェックすることや、細部にこだわることを殊更に評価するための言葉ではありません。お客様に気持ちよくお買い物をしていただくという目標があって、そのためになすべきことは何か。売上を作るという目標があって、そのためになすべきことは何か。日々の細かい当たり前の仕事を疎かにしてはいけない、と自戒しています。本で出会った言葉ではないのですが、おそらくその先輩は本で出会われたかと思います。ちょっとズルでしょうか。
二村知子(隆祥館書店)
以前は、本を読んでいて、素敵な言葉を見つけるたびに、ノートに書き留めていました。
最近、身内に赤ちゃんができて、赤ちゃんが生まれたばかりのお母さんに届けたい佐々木正美さんの素敵な言葉をご紹介します。『どうか忘れないでください、子どものことを。』(ポプラ社)冒頭の「はじめに」より。
お母さん お父さんへ
どうか忘れないでください。
子育てでなにより大切なのは、
「子どもが喜ぶこと」をしてあげることです。
そして、そのことを「自分自身の喜び」とすることです。
子どもは、かわいがられるからいい子になります。
かわいい子だから、
かわいがるのではないのです。
いくら抱いても、いくらあまやかしてもいい。
たくさんの喜びと笑顔を親とともにした子どもは
やがて、人の悲しみをも知ることができるようになります。
誰とでも喜びと悲しみを
分かち合える人に成長するでしょう。
これは人間が生きていくうえで、
もっとも大切な、そして素晴らしい力です。
佐々木正美
全てのお母さん、お父さんをあたたかく包み込む、言葉です。
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