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尼僧の「説く心」に感服した

尼僧の「説く心」に感服した

文:飯島 勲 (内閣参与・元首相秘書官)

『苦しかったら泣きなさい』(梶妙壽 著)


ジャンル : #随筆・エッセイ

 私の経験からいえば、外交問題も、経済的に弱い立場に追い込まれた国から生じるものだ。小泉首相の秘書官時代、誰もが群がるG8など先進国の要人ではなく、最貧国に力を貸すのが私に課せられた使命だった。今も、アフリカのシエラレオネやジブチ、独立まもないコソボ共和国や、中南米の小国など、あるいは日本に大使館を置くことも難しい国々こそ応援している。

 それは私の生い立ちの延長でもある。4人兄弟のうち3人まで知的障害をもって生まれ、兄妹の会話が成立しなかった。五体満足ではない、自分が困っていることすら表現できない弱い立場の人は少なからず存在している。

やさしい日常の言葉で

 梶門跡は昨年、「世界連邦文化教育推進協議会」の会長を請われて引き受けられた。「世界連邦」運動は、アインシュタイン博士や湯川秀樹博士が核廃絶を訴えて始め、日本では「憲政の神様」尾崎行雄が帝国議会に決議案を提出し、湯川スミ夫人が長く尽力されてきた。この文化教育推進協議会は、各界の宗教者も宗派を超えて参加されているとのこと、お手伝いしますと申し出たところ、不肖この私が名誉会長という肩書きをいただき、バチがあたりそうで恐縮している。

 特に宗教観を持たない私だが、梶門跡が、苦しむ人に寄せる思いには、深く共感する。「苦しい時は泣きたいだけ泣けばいい。泣き疲れたらはじめて一歩踏み出せる」。こんなやさしい、日常の言葉でこの本は語られている。

 日本中の1億3千万人の方が、なんらかの苦しみや悲しみを抱えて生きている。『苦しかったら泣きなさい』という本で、梶門跡の言葉を知り、気持ちが洗い流され、考え方がひとつ新しくなれば、素晴らしいことだ。

 梶門跡は「宗教者、特に尼門跡において、自分の過去を洗いざらい語る愚者はいないでしょう。けれども私は生涯愚者でいい。」と覚悟をさだめて、この本を書かれたという。「結婚はゴミ箱よ」という、いささか刺激的な言葉もあるが、「だから人生の修行になる」と仰っている。実体験を踏まえての重みある言葉だから、従わなければいけない気分になるのだ。

※著者・梶妙壽さんは2014年04月25日、頭蓋内出血のためお亡くなりになりました。慎んでご冥福をお祈りいたします。この書評はご存命時に書かれたものです。

苦しかったら泣きなさい
梶 妙壽・著

定価:1,250円+税 発売日:2014年05月15日

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