書評

映画が先か? 小説が先か?

文: 中野 量太

『湯を沸かすほどの熱い愛』 (中野量太 著)

『湯を沸かすほどの熱い愛』
公開中 新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼/松坂桃李/オダギリジョー
脚本・監督:中野量太
主題歌:きのこ帝国「愛のゆくえ」
配給:クロックワークス

©2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
『湯を沸かすほどの熱い愛』 (中野量太 著)

 2年半前には、僕の頭の片隅にしかなかったものが、今、『湯を沸かすほどの熱い愛』として、映画と小説で存在することに、誰よりも一番驚いているのは? はい、僕です。

 京都の大学を卒業後、上京して日本映画学校(現:日本映画大学)に入学したのが1997年の春でした。とにかく自分の中にある曖昧な何かを表現したくて、それが小説なのか?映画なのか? ……今思えば、小説を書いてみたいという思いは、この頃からあった気がします。でも、その時の僕が先に選んだのは、映画でした。

小説、映画ともに自ら手掛けた中野量太氏

 入学時、学校創始者の今村昌平監督のことすら知らない偽映画青年だった僕は、学校へ通う内、あれよあれよと映画作りにどっぷりハマり、気づけば3年後の卒業制作で、学年唯一の今村昌平賞を貰っていました。それくらい映画作りは興奮したし、楽しかった。今村監督を知らずに入学し、今村昌平賞を受賞して卒業したのは、学校史上、おそらく僕だけかもしれません(笑)。

 この頃には、映画監督になることが僕の確固たる目標になっていました。

 今村賞を貰って意気揚々だった僕は、まぁ5年くらいで商業映画監督デビュー出来るんじゃないかと思って、映画の現場に出ました……全く通用しませんでした。僕は映画監督になるどころか、2年も経たずに映画業界から落伍しました。でも、映画を止められませんでした。映画作りの面白さを忘れられなかったのです……。だからと言って、すぐに戻ることも出来ず、その後、子育て番組や若者の討論番組など小規模なテレビ番組のディレクターを務めながら、コツコツと自主映画制作を始め、映画業界に復帰するチャンスを待ちました。

 2012年、納得の脚本を書き上げ、これがダメならもう……、という背水の陣で撮った自主長編映画『チチを撮りに』が、国内外で14の賞を受賞し、ついに映画学校卒業16年目で、商業映画デビューのチャンスを掴みました。それが、10月29日から公開中の『湯を沸かすほどの熱い愛』です。

©2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

 僕はプロデューサーに言いました。「小説も書きたいんです」。あの時、映画より先に選ばなかった小説をやっと書けると思いました。しかし、この言葉を、この後、僕は2回後悔することになるのでした。

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湯を沸かすほどの熱い愛
中野量太・著

定価:本体550円+税 発売日:2016年10月07日

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