
つまり、日本の原子力発電所は、最初から肝腎の原子力そのものについての議論、検討などされていないのである。それは国家対電力会社の陣取り合戦であり、木川田の言葉を引けば「電力会社の命運を決める闘い」という視点でしかなかったのだ。
そもそも、原子力発電の存在理由とはなんであろう。「化石燃料が早晩枯渇すること」、あるいは「化石燃料は環境を破壊するが、原発はCO2を出さないこと」などが強調されている。しかし、原発の導入を決めた1960年代のはじめには、いずれの問題もまったく存在しなかった。
石油、石炭、LNGなどの枯渇問題が取り沙汰されたのは1973、74年のオイルショック以降であり、CO2による環境破壊が大問題になるのは90年代の後半以後である。
当時、日本の原発導入を後押しをした1つの要因はアメリカの存在である。
本書でも触れた1953年のアイゼンハワー米大統領の言明は象徴的である。大量の人間を殺害するための凶悪な兵器であった原子力を人類の平和と繁栄のための夢の装置に転換する。しかも、世界各国に提供すると宣言したのである。さらに、アメリカの原子力委員会が「10年以内に確実に、原発のコストは石油、石炭よりも安くなる」と確証があるように言い切ったことも大きい。アメリカの占領政策が巧妙だったため、日本人の多くがアメリカへの絶大な信頼感を持った。原発はそのアメリカが開発した夢のエネルギーだから安全、安心であり、しかもコストが安いと信じた。
だからこそ、日本では、自前の原発を作ろうとも、安全性を高めるための努力もほとんど行われず、ひたすら効率を上げ、コストダウンするための改善が続けられてきたのであった。その付けが今回の事故にもつながっているだろう。
あとがきでも触れたが、本書に登場する日本原子力界の陰の首領、橋本清之助(1981年没)は、口癖のようにこう語っていた。
「われわれ原子力関係者は社会とファウスト的契約を結んだ。すなわち、われわれは社会に原子力という豊富なエネルギー源を与え、それと引きかえに、これが制御されないときに、恐るべき災害を招くという潜在的副作用を与えたのである」
日本の原発推進の中核だった橋本だけでなく、推進派の多くも、肚を割って問うと、橋本以上の強い恐れを抱いていた。
今こそ、ぜひ本書で、彼らの言葉に触れていただきたい。
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