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生涯現役を貫き通した吉田玉男

生涯現役を貫き通した吉田玉男

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 本名上田末一。大正八年(一九一九年)、大阪市に生まれる。十四歳で「しゃべるのが苦手」という理由で、人形遣いの吉田玉次郎に入門する。

「最初の三年の辛抱が大事、三年辛抱が出来れば十年続く。十年続けば、三十年続く」とは本人の言だが、それでも修業のつらさから、二度の退座を経験している。戦中、二度の兵役を経験するが、戦地にも浄瑠璃全集を送ってもらい、読み込んだ。「立役」という男役で知られ、若い頃は派手な動きで人気を博したが、後年、抑制のきいた動きに、秘めた情感や品のよい色香で観客を魅了した。

 昭和二十三年(一九四八年)、文楽座は分裂。戦後の困難な道を歩みながら、昭和三十年近松門左衛門の名作「曽根崎心中」を復活させる。お初と死をともにする醤油屋の手代「徳兵衛」を操り、これが絶賛され、当たり役となる。生涯で千百回以上も演じた。

 昭和三十八年には松竹が撤退するが、財団法人として再出発した文楽協会を担った。

<「熊谷陣屋」の直実のような鎧人形は二十キロをこえるんです。その点、女形は足がない分だけ軽い。人間と同じで文楽でも女形遣いの方が長生きしてますわ。文五郎師匠のように九十二歳まで立派に遣うてはる名人もおられました。立役(男)遣いは昔はもう七十が限界でしたな>(「文藝春秋」平成五年=一九九三年十一月号「日本の顔」より)

 写真は、八十四歳で「夏祭浪花鑑」で団七九郎兵衛を操る吉田玉男。大名跡を継ぐことの無いまま、生涯現役を貫き通した。平成十八年(二〇〇六年)没。

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