書評

『予言村の転校生』解説

文: 沢村 凜 (作家)

『予言村の転校生』 (堀川アサコ 著)

だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。
 

 日本版マザーグースとでもいえそうな、馴れ親しんだこのフレーズが、本書を読みおえた人の心の中では、特別な存在になっているのではないだろうか。たった十文字のこの言葉が、ずっといっしょに遊んでいたい友達のような、頼もしい相棒のような感じがして、折にふれてつぶやいてしまう。するとその背後では、「心を結ぶ赤い糸、ヤンヤンヤーン、レッドヤーン」などという、聞いたことがないはずの歌謡曲が響いている。

 だるまさんがころんだ。だるまさんがころんだ。レッドヤーン。ヤーン。ヤーン。

 そんな、心地良くもユニークな余韻にひたれる『予言村の転校生』は、ストーリーからみれば、王道をいく物語である。

 主人公が、〈村〉にやってくる。そこにはどうやら独特の風土とそれにつながる謎がありそうで、主人公はいやおうなくその謎に巻き込まれていく。

 これは、ファンタジー、ミステリー、怪談のいずれにおいても正統派のストーリー展開だろう。〈村〉は、町と地続きのようでいながら、どこかに見えない断層があり、それまでの常識とは違った予期せぬ方角から、不思議や謎や怪異が現れかねない。わくわくさせる物語の絶好の舞台なのだ。(ちなみに、本書の筆者・堀川アサコさんの人気作、『幻想郵便局』をはじめとする〈幻想シリーズ〉は、この〈村〉を職場に置き換えたものといえるだろう)。

 本書では、主人公が中学生という多感なお年頃の少女であり、村への訪れも、転校を伴う移住。それも、父親が村長選挙に立候補するというどたばたから始まるのだから、王道物語への導入もあっという間だ。そこから疾走するストーリーは、〈堀川ワールド〉としか称しようのない独自の魅力に彩られて、正統派にありがちな定型臭をまったく感じさせない。

 では、〈堀川ワールド〉のユニークさの源泉はどこにあるのか、私なりにさぐってみると、まずはジャンル横断性が挙げられそうだ。

 本書のストーリーは、ファンタジー、ミステリー、怪談での正統派と述べたが、ではそのうちのどのジャンルなのかと聞かれたら、「すべて」と答えざるをえない。ファンタジーとミステリーの骨格をあわせ持ちながら、怪談の要素も確認でき、さらには青春小説の色合いと、ユーモア小説の趣と、家族小説の芳香に、社会派小説のテイストまで感じられる。

 こう述べると、未読の方は、どっちつかずの中途半端なものだと誤解されるかもしれないが、とんでもない。本作は何よりもまず〈堀川ワールド〉であり、そのうえで各ジャンルの魅力がきっちりと発揮されている。しかも、それぞれの要素が分離せず、ひとつの物語に紡ぎあわされている――ということを説明するよい譬(たと)えはないかと探していたら、何と、本書の中に存在した。

 この物語には、スローフードが登場する。そう聞くと、顔を輝かせる人と眉をひそめる人の両方がいることだろう。スローフードとかエコとかロハスには、「健康に良い」「自然に沿った人間本来の生き方」といったプラスのイメージがある反面、そうした価値観の押しつけや現代社会の日常性への否定というネガティブなイメージも存在する。(以下、若干のネタばれになるが、本書ではこの両方の見方を、重さを感じさせずに提示して、白黒つけずに回収している。「社会派」のテイストを醸しつつ、対立する価値観をどちらも均しく筆者の大きな胸の中に抱きとめてしまう、懐の広い作品なのだ)。

 さて、主人公・奈央がさまざまな事件に翻弄されている最中、げんなりする味のスローフードが何度か登場する。ハーブの味が自己主張しすぎて、どの料理もまずくなっているのだ。読んでいるうちにハーブ料理が嫌いになりそうになるが、物語の終盤で奈央の母親が、ハーブを感じさせながら完璧においしい料理を作って、この危機から救ってくれる。その腕前は、「多喜子という主婦がすごいのは、これだけ美味しく作っても、きちんとわが家の味になっているということだ」と描かれている。

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予言村の転校生
堀川アサコ・著

定価:650円+税 発売日:2014年07月10日

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