──この七月から三ヶ月連続で刊行中の「喬四郎シリーズ」でデビューした八木さんですが、新人らしからぬ力量が話題となっています。いったいどんな方なのか? という問い合わせが編集部に届いているのですが。
八木 著者紹介にあるとおり、歴史好きが高じて小説を書き始めたおじさんですよ(笑)。本業にさしさわりがあるので、詳しいプロフィールはご勘弁いただいてます。孫がいる年齢ということだけ申し上げておきましょうか。
──他の出版社から、執筆の依頼も届いているんですがね。
八木 私も歳が歳ですし、いまは「喬四郎シリーズ」を書くだけで精一杯。ありがたいお話ですが、これを完結するまでは他のことを考えられそうもありません。しかし幸いなことに、書くことが苦しいと思ったことは一度もないんです。いつか時間ができたら、書きたいことを好きなだけ書いてやろうと思っていたので、アイデアだけはたくさんある。うまくかたちになっているかどうかはわかりませんが、楽しみながら書いていることだけは確かです。
──さて、シリーズの主人公・有馬喬四郎は、御国家老・東条兵庫の悪政を正すため、故郷を出奔して江戸に身を潜めている人物ですが、次から次へと珍騒動に巻き込まれ、敵をおびやかすどころか、日々の暮らしをたてるのに精一杯です。
八木 結果的にそういう展開になっていますが、ほんとうは自分にとってのヒーローを描きたかったんです。完全無欠の主人公が悪党どもをスカッとやっつけるような話をね。ところが実際に書き出してみると、どうも勝手が違う。無敵のヒーローになるはずだった喬四郎に、いつのまにか軽妙さや滑稽さが取りついてしまった。喬四郎が宿怨を晴らすために奮闘するという設定は同じですが、小説の雰囲気は初めに考えていたのとずいぶん違っています。書いている私が喬四郎に乗り移ってしまったのかもしれませんね。
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