──脇役には、ひと癖もふた癖もある人物がそろっています。喬四郎にあやしい仕事を持ち込んでくる万請負師(よろずうけおいし)の源七。田舎っぺの偽侍、西田金之助。喬四郎を亡き者にしようと次々に刺客を送り込んでくる東条兵庫などなど、存在感のある人物たちがお話を盛り上げていますね。
八木 いかにも現実世界にいそうな人物をそろえたつもりです。いうなれば俗物です。男なら誰だって、金が欲しけりゃ名誉も欲しい、うまいものを食っていい女をはべらせて……という欲望は心のどこかにひそんでいる。でも、そんな俗物にも一分の理というか、一抹の美しさのようなものはあるわけで、そんなところが描けているといいのですが。
──人物造形の巧みさだけでなく、正確な時代考証も評価されています。
八木 それは光栄です。もともと私は、三度のメシより史料を読むのが好きな男ですから。小説を書くためというより、史料を読んで、その裏に隠されている「真意」を探るのが楽しいんですね。昔はヒマさえあれば古書店をまわって目当ての史料を買い込んでいましたし、図書館にもずいぶんお世話になりました。
それから私には、ちょっと四角四面なところがありましてね、考証のいい加減な時代劇を観ると、胸くそが悪くなるんですよ。いつか自分が時代小説を書くときには、せっかくこれだけ史料を読み込んでいるのだから、面白いだけでなく考証もしっかりしたものをという気持ちはありました。
──影響を受けた作家はいらっしゃいますか?
八木 それはもう、藤沢周平さんに尽きます。格調が高く、それでいて親しみやすい文章は、素晴らしいの一語に尽きます。永らく自分もああいう世界を描きたいと思っていましたが、無理だということがわかりました(苦笑)。自分なりに楽しんで書いて、読者の方々にも楽しんでもらえればそれでいいと、いまは開き直っています。
──喬四郎の今後はどうなるのでしょうか。
八木 東条兵庫は策謀家ですから、刺客だけでなく、ありとあらゆる手段を使って喬四郎を追い詰めにかかります。喬四郎が故郷の上和田表(おもて)に帰るまでには、まだまだ時間がかかるでしょう。降りかかってくる火の粉を払いながら、じりじりと間を詰めていく、そんな展開になると思います。ラストには読者の方々が「ええっ!?」と驚くような事件を用意していますので、完結まで、どうかよろしくおつきあいください。
喬四郎シリーズの次巻(四巻目)は、 平成二十二年十二月刊行の予定です。