「育児日記」。このジャンルの本を積極的に手に取る人間はきっと限られている。定年を迎え日々のんびりと家庭菜園を楽しむ60代男性や、週末に山登りやハーフマラソンに勤しむ活発系OLや、スマートフォンの検索窓に「AV女優 おっぱい」と打ち込んで興奮している中学生男子や、軽快なトークと艶っぽさで安定した人気を誇る小さなスナックのママなんかは、まかりまちがっても他人の育児日記を読んだりしないだろう。本を売りたいなら彼ら全員が読みそうなものを出すべきなのだ。例えば少し昔のものになるが『失楽園』なら全員読むだろう。渡辺淳一先生は本当にすごい。
なので私がこのたび出版するのが育児日記であること自体が既に物書きとして商業的に失敗していると言われればグウの音も出ないのだが、失敗を少しでもなかったことにするために自著の良さを語ることとする。まず、『はるまき日記』には「愛らしさいっぱいの赤ん坊」は登場しない。「母性溢れる母親」も登場しない。なので、読んでも「赤ちゃんに癒された!」とか「母親の愛の偉大さに気付かされて自分の親に感謝したくなった!」みたいな効能は得られない。そういったヒューマニズムがうっとうしい、と思うタイプの方には特に安心して読んで頂けることと思う。また、赤ん坊が謎の死を遂げたり、W不倫で家庭が崩壊したり、日記が途中でふっつりと終わったりするような不安な要素は皆無なので、本ごときに心を無駄に揺さぶられたくない安定志向の方にも非常にお勧めである。そして何よりも、本書の白眉は全編にわたって高度な下劣さを有しているところにある。ぷりぷりした新品の赤ん坊と下劣のマリアージュを是非ともご堪能頂きたい。
ここまで読んでもどんな内容なのかさっぱり想像がつかないという方やこの解説自体にうっすらと不安を覚える方は、まさに今こそそのフラストレーションを解消すべき時。『はるまき日記』をよろしくお願い致します。
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『リーダーの言葉力』文藝春秋・編
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