2015.01.01 書評

前進する育児……それはなんと陳腐で、なんと本質的なんだろう

文: 伊藤 比呂美 (詩人)

『はるまき日記 偏愛的育児エッセイ』 (瀧波ユカリ 著)

『臨死!! 江古田ちゃん』は愛読しました。若くて、いつも裸で、やぶれかぶれで、ちょっとヤサぐれていて、夜の仕事や昼の仕事についていてという設定そのものもとても魅力的で。読んだのはごく最近だったけど、なんで昔から読んでおかなかったかなと悔やまれてなりません。

 ってちょっと待て。

『臨死!! 江古田ちゃん』は、2005年からの連載で、単行本になったのは2006年。なんと。ついこないだの作品だった。いや、なんとなく同世代だと思ってました。瀧波ユカリさん、同世代かと……。

 つまり黄金の80年代。世間はバブルで、雇均法(正確に言えば、男女雇用機会均等法です)は成立で、戦後とか憲法二十四条とか高度成長期とか東京オリンピックとか中ピ連とかウーマンリブとかをいろいろと経験したあげくに、やっと女の価値観が落ち着いて、獰猛さも落ち着いて、前向きに生きられるな、生きないと、と必死で思ってたあの頃です。そんな大昔に生きてた人間はもう子ども産めませんよ。

 失礼しました。江古田ちゃん、漫画の方の冒頭で本人が言ってますが、やっぱり老けてるのかもしれません。

 漫画に出てくる江古田ちゃんの母の生きざまが、なんとなく自分に似ていると思ってました。「千香子」という名で、つまりはるまきの祖母としてここにも出てくるかたですが、わたしは、むしろ千香子さんと同世代なんでしょう。

 で、ともかくも年の差を感じつつ、本を熟読。その前に表紙を吟味。

 表紙のはるまき像には、一も二もなく魅了されます。プロの漫画家の画力はすごい。江古田ちゃんの絵からは想像もできなかったリアルなイラストであり、ぷよぷよむにむにすべすべの、おなかであり、ほっぺであり、おしりであり、ヒトというより、おだんごかおまんじゅうのような体型であり、五月人形の飾り物にしたらさぞやという、りりしい顔だちであります。

 中には、平凡さが満ちあふれています。平凡きわまりない育児の日々です。表現が平凡だといっているのではない、子育ての日常が平凡だと言っているのです。子育てするものならみんな経験するような日常が、日記形式で、えんえんと、たんたんと、描かれる。子どもは成長するから、刻々変化するけれども、親にとって目新しいだけで、人類全体からしてみれば、何も目新しいことはない。

 でもおもしろいのは、文章で表現しているエピソードのひとつひとつが、今にも四コマ漫画になるように感じられたこと。漫画家の目の動きを盗み見た思いでした。

 なぜ瀧波さんは、これを四コマ漫画にしなかったのか。漫画に溺れて生きてきた、でも漫画は描けずに文章を書くしかなかった、しがない詩人としては、漫画でより直接に人に伝えられる技術を持っているのに、もったいないと思うのです。

 そこには何か理由があるはず。子育ての何が、瀧波さんに、漫画じゃなくてエッセイを書かしたんだろうと思いつつ読みすすめていったら、こんなところにぶちあたったのであります。

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はるまき日記 偏愛的育児エッセイ
瀧波ユカリ・著

定価:本体600円+税 発売日:2014年12月04日

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