インタビューほか

書かねばならなかった地方都市の群像劇

「本の話」編集部

『無理』 (奥田英朗 著)

声を挙げる権利

──『最悪』でも『邪魔』でも、いわゆるヤンキーややくざ予備軍のような男が登場しています。今回も元暴走族でインチキセールスをしている若者が出てきますね。

奥田 いま指摘されて初めて気づきました(笑)。無意識のうちにあるんですね。暴走族に入るような学校のいわゆるおちこぼれは、ある意味で差別された側の人たちなんですね。で、小学校、中学、高校と差別されてきて、社会に出てもまた差別されるわけです。それは給与面とか待遇面とか社会的地位とかですね。だったら犯罪を犯す権利はないにしろ、なにか声を挙げる権利ぐらい与えてあげないと可哀相なんじゃないかっていう思いが、僕のなかにあるんです。

──たしかに作品のなかで、インチキセールスをしてはいても、彼らをまるきり否定的には描いておられませんね。

奥田 そうですね。

──それから、スーパーの保安員の女性が登場します。

奥田 たまたまテレビのニュースで万引きを取り締まるスーパーの保安員を映していて、なんていやな仕事だろうと思ったんです。僕は絶対できないし、捕まえるほうも捕まるほうも、ものすごく痛々しいんですよ。

──今回、取材はどうされたんですか。

奥田 とくに取材はしてないですね。厚生労働省が主催していたケースワーカーの広報活動みたいなものを一回覗かせてもらったぐらいです。

──母親の介護とか寝たきりとかといった問題も作品のなかに出てきます。

奥田 そうですね。地方はもう車なしでは生活できない。で、年寄りは、いつまで車に乗れるかで老後が決まってしまうようなところもあります。いまもう、どんどん赤字の路線バスや鉄道が廃止になって……。やっぱり弱者切り捨てというのはここ十年、二十年、顕著になってると思いますね。それはたぶんアメリカ式の自己責任を問うみたいな流れから、しわ寄せがどんどん地方にいくんですよね。金融危機でも、最初は金持ちが損してざまぁ見ろなんて、みんな思ってたかもしれないけれど、結局数カ月後、影響がいちばん下までいってしまうんですよ。何があってもいちばん下が損するような構図ができて、アメリカだけではなく、日本までそうなってしまった。さっきも言ったように、後もどりできないんです。

──土地開発会社の社長で市会議員という男も出てきます。いかにも地方のあくどい大物という、わかりやすいキャラクターだと思うんですけれど。

奥田 そうですね。地方の政治って利益誘導以外あり得ないと思うんです。それ以外求められていないというか。とくに自民党の政治家は公共事業のためだけにあるパターンで、実際それが地方の経済を下支えしてるというのもあるんでしょうけれど。本人もたぶんやりたいと思ってないんでしょうけれど、世襲でなっちゃって、支援者がいて抜けられないという、そういうばかばかしさも描きたかったですね。

無理
奥田 英朗・著

定価:1995円(税込) 発売日:2009年09月30日

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