「サラリーマンはリスクというフライパンの上の豆」だと思います。その豆にもいろいろな豆があって、勢いよく弾けてフライパンから外に飛び出したり、フライパンが相当熱くなっているのに一向に弾けないで、平気なままだったりします。
私は、どちらかというと絶えずフライパンを火にかけられ、あちち、あちちと弾けるタイプです。結局、弾け過ぎて外に飛び出し、勤務していた銀行を退職してしまいました。フライパンが熱くなっていることに気付かずに、平気で過ごせればどれほど楽だったでしょうか。
女房は、よく呆れて私に言います。「もっと静かに暮らしてよ」と。トラブル、リスクなど表現はどっちでもいいですが、とにかく面倒なことに巻き込まれてしまうのです。
第一勧銀総会屋事件もそうです。たまたま新聞記者に取材されて不正な融資があることに気付いたのです。気付いたってそんなものほっとけばいいじゃないですか。ところがほっとけないものだから結局巻き込まれてしまいます。トラブルを呼びこむオーラでも発しているのかと心配になります。
恐ろしさに足がすくみ、もうダメだと思ったことは何度もあります。しかし今のところは、こうして原稿を書いているわけですから、なんとか切り抜けてきたんでしょうね。だから他人からは運がいいと言われます。しかし絶対にそうじゃありません。トラブルに巻き込まれないほうが、運がいいのです。トラブルを切り抜けたから運がいいのではありません。
本書は、サラリーマンがトラブルに巻き込まれたり、リスクに晒(さら)された場合、どのように対処したらいいのかを書いたものです。編集者は、実際に多くのサラリーマンから取材して質問を考えたのでしょうね。随分、多種多様な質問が揃えられました。部下管理、上司との関係、セクハラ、パワハラ、不倫、借金、本当に「浜の真砂(まさご)は尽きるとも、世にトラブルの種は尽きまじ」とでもいうのでしょうか。あたらめてサラリーマンって気楽な稼業じゃないなと実感しました。私はそれらの質問に真剣に、かつ同情しつつ答えましたが、時には突き放した答えもあると思います。トラブルは究極的には自分で解決しなければならないからです。私に慰められたからと言って、本当の解決にはならないでしょう。また私が提供した処方箋が全てに効果的だというわけでもないでしょう。