書評

フライパンの上の豆

文: 江上 剛 (作家)

『もし顔を見るのも嫌な人間が上司になったら』 (江上剛 著)

  最近、こんなことを聞きました。パワハラについてです。ある会社の社長が、「最近の若い社員は、なんとも打たれ弱い。セクハラじゃなくてパワハラが急増してきたんだ」と言うのです。

  社長の言うところによりますと、上司が「ダメじゃないか、お前頑張れ」と部下に言ったつもりでも部下には、「この役立たず、死ね、会社辞めろ、給料ドロボー」と聞こえたらしいのです。体罰なんてもってのほかです。喝を入れようと、頬を優しく触る程度にビンタしただけでも、部下からは殺人未遂で訴えられるのです。社長は、「ゆとり教育が悪い」と日本の教育制度を原因にしていましたが、実際、上司と部下との生育環境の違いから来るギャップが、パワハラの急増につながっているのは間違いないことのようです。

  社長は、さらに「上司はネットハラ(ネットハラスメント)に苦労しているんだ」と面白いことを言うのです。詳しく聞きますと、部下を叱ると、彼はその場では反省した顔をしていますが、直後に、今、流行(はや)りのツイッターで上司のパワハラを「つぶやく」のです。部下が、上司の名前を具体的にネット上に書き込むと、そこに全国、全世界の人から上司を攻撃する書き込みが集まってきます。いつの間にかネット上で、上司は人間とは思えないパワハラ大魔王に変貌していたのです。上司は、ツイッターなんて知りませんから、その事実を息子から教えられました。息子は「お父さんってひどいんだね」と言ったのです。何かと思い、内容を読んだところ、上司は大きなショックを受け、うつ病になりました。自分がパワハラ大魔王になっていることより、部下が信じられなくなったのです。あれほど神妙に自分の指導を受けていたのに、その腹の中ではこんなことを思っていたのかと、部下の二面性が怖くなってしまったのです。それに息子からひどい人間だと思われたことも追い打ちをかけ、上司の心を傷つけたのです。

  部下は、上司がツイッターなんて知らないだろうと思っていますから、気ままに本音を書き込んだのでしょうが、これは社長が言う通り「ネットハラ」です。ネット上の心ない書き込みにショックを受け、自殺する人もいるくらいです。上司は、部下のことを思って指導した「つもり」が、パワハラになり、部下は、ツイッター、すなわちネット上になんとなくつぶやいた「つもり」が上司の心を深く傷つけてしまったのです。こうしたお互いの「つもり」がつもりつもって大きなギャップになり、トラブルを生むことになるのです。

  いったいどうすればいいでしょうか。こんなギャップはどの時代にもあったと思うのです。しかしこれを解決するためには、お互いがお互いの立場を思いやることしかないでしょう。孔子は、君子は言が命だと言います。聖書には初めに言葉ありきと書かれています。何事も言葉が重要なのです。これはお互いのコミュニケーションの重要さも教えてくれていると思います。ギャップを埋める思いやりのある言葉、コミュニケーションが、人間関係の多くのトラブルを解決するのではないでしょうか。

  本書を読まれた人が、トラブルに直面した時、私の言葉で、少しでも光が見えれば、幸せに思います。

もし顔を見るのも嫌な人間が上司になったら
江上 剛・著

定価:767円(税込) 発売日:2010年07月20日

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