別冊文藝春秋

小学校の運動会で目にした、奇妙に血肉の通った人間の塊にまつわる群像劇

文: 朝比奈 あすか

朝比奈あすか「人間タワー」

「最近私、人間タワーの事ばかり考えていて」

 何の気なしにそう告げると、編集者のMさんが不思議そうに復唱した。「にんげんたわあ?」……何ですかそれ、という表情。

 勿論あれですよ、組体操の、あれ。ピラミッドと言ったほうが伝わりやすいのかな。うちの子が人間タワーって言うものだから、私も同じように呼んでいるんです。一部の保護者の間で人間タワーは危ないらしいと声が上がったところだった。大怪我につながりかねないってネットニュースに出ていたわよ。URLが回ってきて、教師に相談してみようかと、もやもやしていた。子どもたちの間でも、やりたい派と慎重派に分かれているらしい。

 そんな話をしようとしたら、Mさんが、

「人間タワーって、なんか凄い言葉ですね」

 面白そうに言った。

「だって、人間の、タワーですよ」

 そう言われてみて、ふいに運動会にも組体操にも関係のない地点から「人間タワー」に再会した気がした。頭の中に、奇妙に血肉の通った知らない個体がむくむくと立ち上ってくる。色鮮やかなトーテムポール。岡本太郎の太陽の塔。テレビドラマの『ハンニバル』で見た、死体を組み合わせて作った残酷な櫓。それらがごっちゃに組み合わさった、人間の塊。危険だという学者の意見、母の不安、いやそれでもやるべきだという識者の声、それぞれの位置で四つばいになって友達を支える子どもたち、それを眺める観客たち……さまざまなものが溶けあった。

 気づくと私は、

「人間タワーにまつわる群像劇はどうでしょうか」

 新作の小説について、そんなふうに提案していた。

「別冊文藝春秋 電子版7号」より連載開始

別冊文藝春秋 電子版7号(通巻323号/2016年5月号)

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発売日:2016年04月20日

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