長年にわたり、数だけは多くの本を出版して頂いてきた。
最初の『青春に悔いなし 学生夫婦留学記』は三一書房から一九六五年の発行なので、もう四十五年が過ぎたことになる。
雑多なテーマに挑戦してきたのだが、なぜそのテーマに決めたのかについては、それぞれの本に、理由というか、背景がある。私自身にとっての“小さな歴史”のようなものだ。
今回文藝春秋から出して頂いた『言葉でたたかう技術 日本的美質と雄弁力』にしても、その萌芽は何年も遡ることになる。「文藝春秋特別版」(現「文藝春秋SPECIAL」)との御縁に、である。
本書のサブタイトルの「美質と雄弁力」は、日本人にとっては同じものではない。“あるもの”と“ないもの”なのだ。美質はあるものだが、雄弁力はないものである。この二つは別物だが、「特別版」でも別々に取り上げて頂いた。
今から七年前に、西安の大学で日本人留学生が行なった寸劇がきっかけとなって、反日デモが起きたことがあった。翌年のサッカーのアジアカップでも、またその次の年には北京、上海、天津などで反日デモや暴動が起こった。何となく自信を失った日本人を励まそうと、「特別版」の当時の編集長I氏は、「私が愛する日本」(二〇〇六年八月号)と題する号を企画なさった。その中に、教え子たちと私の「外国人52人が語る 私は日本のここが好き!」が九十四ページにわたって収録されたのだ。“教え子たち”というのは、上智大学のフランス語担当講師を定年退職したあとに同大学コミュニティ・カレッジ(公開学習センター)が開講して下さった「ノンフィクションの書き方」、及びその後の自主講座における受講生たちのことである。
三十二ヵ国からの五十二人の方々は、日本と日本人の美点について、実に様々な角度から語って下さった。インタビューをした教え子たち自身、「気づかなかった」「え、こんなに誉められちゃって、いいのかしら」と驚いたほどである(この記事は、幸い二〇〇八年に出窓社から同題で単行本として出版され、二〇一〇年には「続篇」も出版された)。
この中で語られている日本人の多くの美点、たとえば“繊細さ”“謙虚さ”“正直さ”などは、外の世界へ出ると、しかし、美点ではもはやなく、“弱さ”や“欠点”にもなり得る。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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