書評

妥協しなかったオシム。

文: 田村 修一 (作家)

『オシム 勝つ日本』 (田村修一 著)

「よくそんなに話すことがあるわねえ」と呆(あき)れながらも、アシマ夫人もいつも最後までわれわれの話に付き合う。

  ボイスレコーダーへの録音だから別にどうということもないが、もし昔ながらのカセットレコーダーを使っていたら、テープの量だけでも膨大なものになっていた。実際、文字にした会話は、一回の取材で原稿用紙二百枚前後になる。自分の馬鹿さ加減が延々とリピートされるのを聞くテープ起こしは、気が狂わんばかりの作業だった。

では、どうしてオシムは、そこまで語ったのか。

  志なかばで病に倒れ、中途半端に終わってしまった仕事への悔しさと、やり残したことへの責任感。日本サッカーへの思いと、日本に自分の痕跡を残したいという願い……。さまざまな思いが、彼の胸のなかで交錯しているのだろう。

  メディア泣かせ、インタビュアー泣かせの人であるとも思う。終始マイペースで、質問にまともに答えない。逆に質問者に切り返すこともしばしばで、カメラ目線など気にしない。

  だが、質問に素直に答えないのは、メディアの常識・聞きたいことと、彼が真実と考えることとの間に隔たりがあるから。その隔たりを、オシム自身が看過できない重要な問題と捉えて、彼自身の言葉で提起しているから。その部分で、オシムは絶対に妥協しない。

  われわれのインタビューも、たとえば三回に分けて話を聞く場合、一回目はこちらの用意したテーマに関係なく、オシムが自分のいいたいことだけを喋しゃべる。はじめは、私も焦(あせ)った。あらかじめ送った質問表などまったく無視して、全然違うことを延々と語り続けるのだから。何とか軌道を修正しようとしても、無駄な努力に終わった。

  だから聞き終わると、けっこう落ち込む。次もこうだったらどうしようと、少し暗い気持にもなる。

オシム 勝つ日本
田村 修一・著

定価:1400円(税込) 発売日:2010年04月14日

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