- 2014.08.03
- 書評
都市と田舎のはざまで動き出す、家族冒険ファンタジー
文:堀川 アサコ (作家)
『予言村の転校生』 (堀川アサコ 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
せんだってテレビを観ていたら、日本はとんでもないことになっていた。
人口減少にともない、県庁所在地を含む896もの市町村が、将来消滅する可能性があるという。わたしが住んでいる青森市も、そのひとつに数えられていた。
なんてこった。
せっせと雪かきして、せっせと税金を払って、その挙句が消滅か。
べつに、好きこのんでふるさとにしがみついているわけではない。小説家になることだけを目標に、わき目もふらずに生きてきたら、いつの間にかふるさとの引力にからめとられていたのだ。
お金がないから、時間がないからと理由をつけて、ろくに旅行すらせずに、知識も情報も書物とうわさ話からのみ蒐集してきた極めつけの耳年増のわたしは、「あッ」という間に今年で50歳になってしまった。極めつけの耳年増――ようするに、極めつけの世間知らずということである。
そんな50歳の世間知らずが、年々強さを増すふるさとの引力を断ち切って、いまさらどこへ逃げて行くというのか――。
『予言村の転校生』は、そうしたシビアな現実を少しも踏まえずに、都市と田舎のはざまを書いた、軽い読み口の小説である。
主人公は中学2年生の女の子・湯木奈央。
主人公にこの設定を与えたのは、わたし自身が中学生のころに今の自分の原型ができたからだ。それでいて、この年齢のころには、人生の苦悩や憂いといったものを、少しも知らなかった。「憂鬱」とか「悲哀」なんて言葉を聞くと、なにやらステキ……と胸を高鳴らせていたりしたものだ。
そうそう。くもり空に冷たい風なんか吹けば、もうそれだけで胸が躍った。古色蒼然とした廃屋を見掛けるとワクワクした。まるで、そこから、物語が動き出すような気がしたからだ。
今回はそんな年ごろの奈央の力をかりて、田舎暮らしを楽しんでみようと思った。わたしは横着者だから、なにかを思い立つと実行に移すより、机にかじりついて小説にしようとする。
さて、主人公の田舎暮らしは、市役所のヒラ職員だった父・育雄が隣村の村長に立候補することから始まる。
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