- 2014.08.03
- 書評
都市と田舎のはざまで動き出す、家族冒険ファンタジー
文:堀川 アサコ (作家)
『予言村の転校生』 (堀川アサコ 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
奈央が苦労知らずの中学生なのと反対に、育雄は苦労人だ。家に居れば妻の尻にしかれ、親戚の前ではもういい年なのにさんざんお説教をされ、職場にあっては自分の送別会で存在を忘れられてしまうような、影のうすい人だ。
こうした人物が村長選挙という、思いがけない人生の檜舞台に立つことになったのには事情があった。育雄の父、つまり奈央の祖父が、やはり村長だったのだ。なかなかの辣腕で村をひっぱっていたじいさんは、自分の亡き後は息子の育雄が継ぐようにと遺言で命じていた。
いかに父親の遺言とはいえ、育雄が市役所職員という安定した職をなげうって村長選挙に立候補したのには、これまた事情がある。
湯木家のルーツ、こよみ村では、そこで起こることすべてが予言されている。育雄が村長になることも、予言されていたのである。
それが、こよみ村の予言暦。
この予言に関する一切合切は、村では固く封印されている。だから、予言暦は秘密の書だ。
だけど、主人公は無鉄砲な中学生だから、隠されれば隠されるほど、見つけ出したくなる。父の選挙をきっかけにこよみ村に移り住んだ奈央は、同級生たちと一緒に絡みあった秘密を解き明かしてゆく。その過程には、ちょっと怖い出来事や、意外な和解なんかもあって、書いていて本当に楽しめた。
わたしは都会で暮らしたことがない。田舎で暮らしたこともない。
都会のあふれる文化の中で暮らすのは、さぞや楽しいだろうと、想像をめぐらせてみる。田舎の清涼な空気の中で思い切り土いじりをして暮らせたら、どんなにか気分の良いことだろうと羨みもする。でも、きっと都会にも田舎にも、それぞれに足りないものがあるのだろう。
作中、こよみ村の大人たちも、不便さを嘆いたり都会人からの賞賛に気を良くしたりしながら、開発と自然保護に揺れる村の中で生きている。主人公の奈央と友人たちは、大人の苦労や村の暗い歴史を遊び道具に変えて、おもしろおかしく毎日を過ごしている。
だから、この物語を手にとってくださるあなたが、都会の人でも田舎の人でも、わたしのように故郷に住み続ける地方都市人でも――。いっとき全ての束縛を忘れて中学生の気分にもどり、知らない村で林間学校の何日かを過ごすような楽しみを味わってもらえたら、と願うのである。
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