宗教学を専門としてきた私が、経済について、あるいは経済学についての本を書き下ろすということは、意外に思われるかもしれない。たしかに、今回上梓(じょうし)した『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』のような本は書かれたことがなかった。ユダヤ人が世界の経済を動かしているかのような幻想を振りまく陰謀論はいくらでもあるが、西欧の経済学、経済思想の背後にユダヤ・キリスト教の信仰が強い影響を与えていることを指摘するのは、相当に大胆なことかもしれない。
その点では、自分でも冒険的な試みだと思うが、経済の問題には昔から強い関心をもってきた。高校時代でも、一番得意だった科目は「政治経済」だし、私が専門とする宗教の問題について論じるときにも、その教義や思想よりも、宗教を成り立たせている経済的な原理の方に、どうしても関心がいってしまう。
そもそも私の父親は、一橋大学を出たサラリーマンで、私の「ひろみ」という名前も、経済学の権威、故有沢広巳氏に由来するという話も聞いたことがある。
ただ、それ以上に、私が育っていく過程で、高度経済成長の時代をつぶさに経験したことの方が、はるかに影響を与えている。経済発展が驚異的な勢いで続いていた時代には、工務店に勤めていた父親も、その恩恵を相当に被(こうむ)っていたが、逆に、一九七〇年代に入って経済の伸びが鈍化すると、我が家はその影響をもろに受け、父親が勤めていた会社は二度もつぶれた。
あるいは、小学校時代には、学校のすぐそばで、新宗教の一つ、立正佼成会の大聖堂が建っていく姿を目の当たりにしたことも大きい。新宗教が巨大化していくのも、高度経済成長の波に乗って地方から都会に出てきた人たちが信者になったからである。小学生の私がそうした事情を理解していたわけではないが、しだいに豊かになっていく社会のなかで、巨大な建物の建設という形をとって信仰のエネルギーが炸裂(さくれつ)していく光景は、私に鮮烈な印象を残した。
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