インタビューほか

池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史
「教養主義からエンタメの時代へ(後編)」

文春文庫の2000年代・2010年代

 

瀧井 ネタバレになるので詳しく言えないですが、凝った構成の作品です。これも映像化は難しいと思っていたら、先日ドラマ化されて驚きました。そして『小さいおうち』(*27)! ゲラで読んで興奮して、すぐにツイッターで呟いた思い出のある作品です。

池上 中島京子さんは玄人受けする作家だと思っていましたが、この作品は誰が読んでも楽しめますよね。ユーモアもあるし、人を見る目が深い。

瀧井 女中さんから見た、歴史の教科書には乗らないような昭和の人々の生活が細やかに描かれているところも魅力ですが、加えて最終章を読んだ時の驚きが……。

池上 さりげなく企んでいてうまいですよね。

 

瀧井 森絵都さんの『カラフル』(*28)は児童書の世界ではロングセラーでしたが、児童向けでありながらシビアな人生模様を描いた傑作で、高校生が選んだ文春文庫作品で1位になったというのもわかります。

池上 子供向けだからといって甘くない。性の問題にも踏みこんでいて、しかも視線が柔らかいよね。

瀧井 それぞれが抱える事情は深刻なのに、一度死んだ子が他の身体にホームステイしたり、案内人の天使がいたり、森さん独特のユーモラスな雰囲気がまたいいですよね。

村上 主人公の中学生男子が好意を持っている女の子が体を売っていたり、児童書ではタブーだと思っていたことも描かれていて驚きました。

瀧井 『三匹のおっさん』(*29)は若い世代に人気の有川浩さんが、年配の世代にも読者を広げた作品ですね。

村上 還暦世代を中心に孫の世代の恋愛模様もからんで、全方位的ですよね。児玉清さんの文章や、カバーも含めて文庫としての作り方もいい。読みやすくて社会性もあるところに人気の秘密がありますね。

瀧井 『プリンセス・トヨトミ』(*30)の万城目学さんはホラ話をさせたらピカイチ。文庫には万城目さんの楽しいエッセイが収録されていて、単行本で買った人もまた買いたくなる。そういうお得感もあるんですよね。

*27 六十年の時を経てよみがえる戦時下の恋愛事件。第143回直木賞受賞作。山田洋次監督・松たか子主演で映画化。

*28 生前の罪で輪廻のサイクルから外れたぼくの魂は再挑戦のチャンスを得る。実写映画化、アニメ化もされた。

*29 還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか! かつての悪ガキ三人組が自警団を結成、ご近所の悪を斬る! 北大路欣也主演でドラマ化。

*30 会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女が歴史の封印を解く時、大阪が全停止する。驚天動地のエンタテインメント。堤真一主演で映画化。

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