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池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史<br />「教養主義からエンタメの時代へ(後編)」

池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史
「教養主義からエンタメの時代へ(後編)」

文春文庫の2000年代・2010年代

出典 : #本の話
ジャンル : #ノンジャンル

池上冬樹(いけがみ・ふゆき)写真中央
1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。文芸評論家。週刊文春、朝日新聞、小説すばる等で活躍中。著書に『ヒーローたちの荒野』、編著に『ミステリ・ベスト201 日本篇』など。

瀧井朝世(たきい・あさよ)写真右
1970年東京都出身。慶応義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て、独立。朝日新聞「売れてる本」、ananの書評等で活躍中。

村上貴史(むらかみ・たかし)写真左
1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒。書評家。ミステリマガジン等で活躍中。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション』編著に『名探偵ベスト101』がある。

人気シリーズはキャラが命

瀧井 三浦しをんさんの『まほろ駅前多田便利軒』(*22)は、70年代生まれの作家が初めて直木賞をとったという意味でも話題になりました。

 

池上 多田と行天という2人の出会いもいいし、つらい話をさりげなくきちんと受け止めて、哀しみを掬い上げている。

瀧井 2人の男性の関係に萌えるという女性読者が多いです。続編の『まほろ駅前番外地』(*23)も出ていますが、シリーズ物は強いですね。

池上 石田衣良さんの『池袋ウエストゲートパーク』(*24)もシリーズ物です。オール読物推理小説新人賞を受賞した短編からスタートしていますが、会話のテンポが良くて、文章がウイットに富んでいて新鮮でした。

村上 スタイリッシュで、青春小説的な輝きもありましたしね。

 

瀧井 ドラマも良かった。今では主役級の若い役者たちがたくさん出ていて、あれでクドカン好きになりました。00年代以降は映像化作品が強いですよね。売れているから映像化されたのか、映像化されたから売れたのか……。『イニシエーション・ラブ』(*25)は数少ない例外ですね。

村上 あれは映像化できないでしょう。

瀧井 「仰天作」という帯でずっと書店で平積みされていて、多くのメディアで取り上げられて。私も朝日新聞で紹介したんですけど、読んで「普通の恋愛小説じゃないの」という人がいてびっくり。仕掛けに気がつかない人もいるんですね。

村上 真相に触れずに魅力を紹介するのが難しい本ですよね。

瀧井 大矢博子さんの解説が秀逸で、ネタバレを避けつつ時代背景を説明してくれて、思い返すと「ああ、そういうことか」と感心しました。

池上 こういう手法で男女の愛を描く小説は、連城三紀彦さんが得意だったよね。湊かなえさんの『花の鎖』(*26)もだけど、こういった作品が上位に入ってくるのは嬉しいね。湊さんはドロドロした心理描写の作品を多く書かれていますが、『花の鎖』は希望のあるラストで、僕は好きだったなあ。

*22 東京のはずれ、まほろ市で便利屋を営む多田の元に高校時代の同級生・行天が転がりこんだ。第135回直木賞受賞作。瑛太、松田龍平主演で映画化。

*23 多田と行天とともに脇役たちが主人公となるスピンアウトストーリー。瑛太、松田龍平主演でドラマ化。

*24 命がけでストリートを疾走する若者たちを鮮烈に描く人気シリーズ第一弾。長瀬智也主演でドラマ化。

*25 甘美でほろ苦い青春小説―と思いきや?「必ず二回読みたくなる」と絶賛の傑作ミステリー。

*26 毎年届く謎の花束。差出人のイニシャルは「K」。中谷美紀、松下奈緒、戸田恵梨香主演でドラマ化。

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