ドラマ化され大反響
しかし、出版後、この本は思いがけない形で広がっていった。光栄にも、第39回大宅壮一ノンフィクション賞、第30回講談社ノンフィクション賞をいただいた。2009年4月からは、NHKの土曜ドラマ『遥かなる絆』(全6回)というタイトルで放送された。私が留学した長春や父の育った牡丹江、そして愛媛の実家でも撮影が行われ、我が家は大騒ぎとなった。反響は大きく、放送後、手紙や電話などでたくさんの感想をいただいた。多くの人々の支えがあって、今の自分がいるのだということを実感した。
出版から5年が過ぎた今でも、本のこと、ドラマのことを記憶に留めてくださっている人々がいる。それは著者として、この上ない喜びである。
私にとって、この本は本当に大切なものだ。そしてその気持ちは、時の流れにより、さらに強くなってきている。36歳になり、家族を持ち、執筆当時とは環境が大きく変化したことも、関係しているかもしれない。だから、日中国交正常化40周年を迎えたこのタイミングで文庫化できることは、新たな作品を世に送り出すようで感慨深い。
ここで改めて本の内容を紹介したい。
本文は父の時代と私の時代の2部構成になっている。
第1部では、1945年8月、ソ連侵攻による逃避行で実の両親と生き別れ、中国人の養母、付淑琴に引き取られた父(孫玉福・城戸幹)が、ほぼ自力で日本の両親を見つけ出し、文化大革命の混乱のなか、命がけで帰国を果たす過程を描いた。
第2部では、日本で生まれ育ち、中国語も話せず、中国には全く興味のなかった娘、久枝(私)が、中国に留学し、血のつながらない親戚たちと触れ合い、また日中で衝突する複雑な感情の渦に巻き込まれながら、父の半生を追う過程をつづった。さらに満州国軍の軍人だった祖父のことや中国残留孤児の裁判についても書いている。
そして今回、新たに書き加えた文庫のためのあとがきでは、出版するまでの経緯や、出版後のエピソード、ドラマの裏話、父や私の現況などを盛り込んでいる。きっと、単行本を読んでくださった方にも、楽しんでいただけると思う。また、ライターになる前の私を知る恩師、ノンフィクションライターの野村進さんが、とても温かく、素晴らしい解説を寄せてくださった。単行本に引き続き、鈴木成一さんが素敵な表紙を作ってくださった。
544ページ。文庫としては、少々分厚いかもしれないが、ぜひ手に取ってほしい。特に若い世代のみなさんにも読んでもらいたい。
「中国は好きですか?」
日中間で問題が起こるたびに、こう問われる。
「好きでも、嫌いでもない。ただ、私はこの国に縁があると思っている」
私はいつもそう答えるようにしている。一つの側面だけでは簡単に語ることができない国、それが中国だ。留学時代、反日感情の渦に巻き込まれたことがある。一方で無償の愛で父を育てた養母や、私を全力で受け入れてくれた親戚たちの温かさも忘れられない。
中国とどう付き合うべきか。日中のはざまで揺れ動いた私たち家族の歴史が、この難しい課題に向き合うための小さなヒントになればうれしい。
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