前著『聞く力』がベストセラーとなり、次々に取材を受ける側となった阿川さんは、他人と深くかかわることを怖れている人が多いことに気付いたという。
「『人見知り』だという人や、叱るのも叱られるのも苦手な人。今回の本の取材でも、新聞社も出版社も『編集部で怒鳴り声を聞きません』と言う人ばかり。私、新聞社なんて怒鳴り声だらけと思ってたんですけどね。ある編集者に、『部下が間違ったときはどうするんですか』と聞いたら、『注意して、それで直らなければ、ここまででいいからって他の人に頼みます』。それって冷たくない?」
聞くこと同様、叱るにも叱られるにも、力と経験は必要なのだ。
阿川さん自身、叱られた記憶はいっぱいある。テレビやインタビューの仕事を始めたときよく叱られたし、何より父の阿川弘之さんから叱られて育った。
「ここで書いたのは、ほんの百分の一です(笑)。誤解されると困るんですが、それだけ叱られて私がたくましくなったということはなくて、いまだに叱られると落ち込みます。ただ、叱られたくないと思うから相手のことをよく見るし、場数を踏んで、叱られたときの対処法は少しは身についているかもしれない」
叱られた経験を、笑いに変えて誰かに話すこともそのひとつ。確かに、子どものときから叱られていれば、一度叱られたからといっていきなり会社を辞めるようなことにはならないだろう。
「昔の親は今の親より自信があったのかと思ったことがありますけど、そうではなくて、子どもに好かれるよりその子が後ろ指をさされないよう鍛えるのが自分の役割という自覚があったのでは?」
近年は、阿川さんが出演番組の若いスタッフをあえて叱ることもある。
「そのせいか、どうも避けられている気が(笑)。寂しいけど、この年齢になればそれもしょうがないと思うんです」
父に新著を届けた数日後、「今日、来られないか」と電話があった。
「久しぶりに父のことをたくさん書いているのでドキドキしました。父の悪口については今回さすがにクレームが出るかと思ったけど、一切なかった。自分も家族のことを散々書いてきたから、昔から不思議とその点では理解があるんですよ」
そのかわりというか、「ざっと読んで気になるところがこれだけある」と、数十カ所にわたる誤りを指摘された。おもに日本語表現の問題で、叱り叱られる父娘の関係はいまもって健在である。