書評

寓話的ファンタジーの中に花開く生の賛歌

文: 大森 望

『ほんとうの花を見せにきた』 (桜庭一樹 著)

さくらばかずき/2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。同作は映画化も話題に。〈GOSICK〉シリーズや、『伏』『傷痕』『桜庭一樹短編集』『無花果とムーン』など著書多数。 文藝春秋 1400円+税

 帯にいわく、“生のよろこびとかなしみに満ちた、大河的青春吸血鬼小説誕生!”。な、なんだって? と思わず訊き返したくなるキャッチフレーズだが、読んでみると、本書はたしかに一種の大河小説であり、まぎれもない青春小説であり、れっきとした吸血鬼小説なのだった。ただし、ふつうの吸血鬼とはわけが違う。なにしろ本書に登場するバンブーは、世にも珍しい植物性の吸血鬼。中国の山奥で暮らしていた竹の妖怪(竹族)が日本に移民してきて、現代の地方都市でひっそり暮らしている。人間を殺して血を吸うことは一族の掟でかたく禁じられているので、夜勤の看護師で生活費を稼いだり、冷蔵庫に保管したパック入りの血を飲んだり。年をとらないかわり、120年に一度、白い花を咲かせて消える。

 ……というような設定は物語が進むにつれて少しずつわかってくる。全3話のうち、第1話「ちいさな焦げた顔」が、分量的には全体の3分の2近く(約180ページ)を占める。主人公は、ある事情から組織に家族を殺害され、追われる身となった男の子、梗(きょう)。バンブーのムスタァと洋治に拾われて一緒に暮らすこととなった彼は、やがて(組織の目を逃れるため、女の子として)学校にも通いはじめる。友達もでき、平穏で幸福な日々が続くかに見えた。しかし、人間と交わることはバンブーにとって最大の罪だった……。

 設定は寓話的なファンタジーだが、タブーを犯しながら(爆弾を抱えて)生活するという点は『私の男』と同じ。時が止められた吸血鬼と、否応なく成長していく人間との交流から生まれる切ない思いが核になる点は、萩尾望都の名作『ポーの一族』とも重なる。

 続く表題作は、第1話に出てきたはぐれバンブーが主役。最終話では、バンブーが中国の山間部で暮らしていた頃の物語が綴られ、全体が大河ロマンとして完結する。新しくて懐かしい、不思議な魅力に満ちた“大河的青春吸血鬼小説”だ。