インタビューほか

<ミステリーの名手>真保裕一インタビュー「街の奥深さに触れる軽快ミステリー」

「オール讀物」編集部

『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』

『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』(真保裕一 著)

 ミステリーの名手、真保裕一さんの新作は、港町・ヨコハマが舞台だ。

「十年前に『追伸』を書いたとき、横浜の遊郭について調べながら、戦中戦後の横浜にあった、書いてみたい新たな題材を見付けていました。ただ、その当時の話をそのまま書いても面白くない。それからずっと保留になっていたところに、横浜市に面白い部署があることを知ったんです。港を盛り上げるためなら、お祭りでも何でもやるのが仕事だと聞いて、『あの題材が使えるじゃないか』と思いました」

 主人公は、市役所の「みなと振興課」で働く船津暁帆。若手の彼女の元にあらゆる雑用が舞い込む中、同僚として、国立大学を卒業したエリート新人、城戸坂泰成が配属される。二人は、カンボジアからの研修生の失踪事件、フォトコンテストの応募写真を巡る謎、豪華客船での幽霊騒ぎなど、次々にトラブルに見舞われるが、ひとつひとつ乗り越えるうちに、市長にも知られる名コンビとなっていく。

 物語では、大さん橋、氷川丸、港の見える丘公園など代表的な観光地から埠頭の倉庫、郊外の住宅街まで、横浜のさまざまなシーンが描かれている。

「出てくる場所は、ぜんぶ回りました。書いたのは、歩いたうちのほんの一部。歴史的なスポットだけではなくて、みなとみらいの観覧車にも乗ったし、カップヌードルの博物館にまで行きました(笑)。歩いていると、ここは元造船所、ここは元フランスの施設と、いちいち謂れがある。資料館も複数あって、これが楽しかったんですよね。『お、使えるな』というネタが次々出てきて、時間がかかって仕方ない。気付いたら、横浜発祥のナポリタンを食べて帰る時間がなくなってしまったくらい」

 当初からあった題材と、取材の成果が見事に融合して、美しい港町という側面だけでなく、横浜が抱えた過去の暗部も描きだす。その歴史は、城戸坂の家族が持つある謎にがっていく。

「家族について知りたいという城戸坂の気持ちは、自分の実体験でもあるんです。親父が亡くなって実家を整理していたら、祖父の遺品もたくさん出てきた。大学の仲間との写真や、海外留学した時の船の半券などが、丁寧に保存されていました。祖父の記憶はないし、大学の先生だったということぐらいしか知らない。事情は分かりませんが親父も何も教えてくれなかった。だから城戸坂の気持ちは書きやすかったし、楽しかったですね」

 軽快なミステリーでありながら、知らず知らずのうちに、この街が持つ奥深さに触れる作品だ。


しんぽゆういち 一九六一年東京都生まれ。九一年『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。『奪取』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、『灰色の北壁』で新田次郎賞を受賞。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 12月号

2018年12月号 / 11月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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