書評

日本のハードボイルド史上、こんなにカッコいい女性主人公はいない!

文: 内藤麻里子 (毎日新聞社編集委員)

『魔女の封印』(大沢在昌 著)

『魔女の封印』(大沢在昌 著)

 この水原の活躍を女性読者が知ったら、ハートを射貫かれること請け合い。現に私がそうだ。

 普通、男性作家が描く女性は「こんな女いないよ」と女性陣に言わしめることが多い。従順だとか優しいとか、待っていてくれる、許してくれる都合のいい存在。ロマンチックな男の夢想を託した女性像だからだ。ところが水原ときたら、ものの見方や発言に驚くほどリアリティーがある。

『魔女の笑窪』で初登場した時、一夜限りの相手をこう斬り捨てる。〈男が射精(だ)したいとき女をナンパするように、女もやりたいときがある。つまりは道具でしかないのだ。なのに道具以上だと自分を錯覚する。ただの自惚(うぬぼ)れだ〉

 本書では、誰かを殺した後の気持ちを聞かれて〈死んで当然だ、とそのとき思い、そして忘れる〉とさらり。

 また、〈ひきしまった肉体やひたすら奉仕できる体力、なめらかな肌といった上べの歓びだけを、若い男には求めた〉(『魔女の封印』)と年下と寝る理由を明かす。

 本来女は率直で辛辣なのだ。でも、実社会では周囲に気配りした方が生きやすいと知っているから、爪を隠している。ここには本音があふれている。だからこそ水原の言動に胸のすく思いがし、憧れるわけだ。

魔女の封印 上大沢在昌

定価:本体670円+税発売日:2018年12月04日

魔女の封印 下大沢在昌

定価:本体680円+税発売日:2018年12月04日

魔女の盟約大沢在昌

定価:本体900円+税発売日:2011年01月07日

魔女の笑窪大沢在昌

定価:本体700円+税発売日:2009年05月08日


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