新年あけましておめでとうございます。
『居眠り磐音 江戸双紙』(双葉文庫)シリーズが五十一巻で完結して、三年が過ぎました。
このたび、本シリーズを新たな視点で見直すことに致しました。
シリーズ名を『居眠り磐音』と簡潔にして、第一巻の『陽炎ノ辻』から決定版を順次、足かけ三年にわたり文春文庫にて刊行していく所存です。
作者の私も五十一巻の見直しを務めて参りました。そこで感じたことを正直に申し上げます。
その前に、十五年にわたる長大な五十一巻の物語にお付き合い頂いた読者諸氏の根気とシリーズに対する愛情に深く感謝申し上げます。
『居眠り磐音 江戸双紙』を書き継いでいるときは、ただただ前へ前へ、
「次作の展開」
のことのみを考え、既刊の文庫を読み直す機会がありませんでした。この機にシリーズを読み返し、恥ずかしながら、
「この小説を私が書いたのか、面白いじゃないか」
と思いました。なにより物語が古びていないと傲慢にも作者は想いを強く致しました。
時代小説を未だお読みでない読者の方々も、書店さんで『陽炎ノ辻』を手にお取りになって下さい。必ずや面白さに感動されましょう、涙を流されましょう。
文春文庫の決定版の『居眠り磐音』第一巻『陽炎ノ辻』が二月に刊行されるのを機に、スピンオフあるいは外伝として磐音と奈緒の幼年期から青年期を新たに書いてみました。
既刊の五十一巻であらゆる磐音を書いてきたつもりでしたが、奈緒と磐音の間柄で書き残したところがあることに気付かされ、文春文庫『居眠り磐音』決定版の手直しをしながら『奈緒と磐音』を認めました。
誕生した折から二人の運命は定まっていたにも関わらず、悲劇に見舞われて別離を受け入れなければならない。
長大な物語の序章というべき『奈緒と磐音』をお読みになり、二人の無垢にして清純な愛情がどう変転していったか、決定版『居眠り磐音』にてお楽しみいただければ、作者はこれ以上の幸せはございません。
また文春文庫『居眠り磐音』の刊行に合わせ、新しい御代を迎える五月十七日、松坂桃李君が新たなる磐音役に挑戦する映画『居眠り磐音』が公開されます。
文春文庫『居眠り磐音』決定版とともにぜひお楽しみ頂けたら、幸甚でございます。
平成最後の三十一年正月 熱海にて
佐伯泰英