
自らの体験に基づいて意見を述べれば、猫とは実に恐ろしい生き物だ。私はここで、自信を持って断言する。
大学生の頃まで、私は自他ともに認める犬好きだった。自宅には間抜けな柴犬が一匹いたし、ご近所に飼われている犬たちとも大の仲良し。猫といえば、愛想のない巨大な野良猫たちが、犬と遊ぶ私を遠巻きにしているばかりだった。
そんな生活が一変したのは、二十代半ば。稽古事の師匠が突如、猫を飼い始め、ご自宅にうかがうたび、嫌でもこいつと顔を合わせるようになったのだ。
遠くからじーっとこちらを見ている癖に、急に近づこうものなら、脱の勢いで逃げて行く猫。柔らかい毛をわずかに触らせてくれたかと思った次の瞬間、笥の上に駆け上がって、毛づくろいを始める猫。
なかなか胸襟を開かぬそんな猫を見ているうち、私はこいつをどうにか懐かせてやろうと思うようになった。猫好きになったわけではない。ただ本当にふとした気まぐれで、よし、こいつを手なずけてやれ、と考えてしまったのだ。
そう、もうお分かりだろう。これが私の転落人生の始まりだった。
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