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猫と本を巡る旅──オールタイム猫小説傑作選

猫と本を巡る旅──オールタイム猫小説傑作選

文:澤田 瞳子

猫をこよなく愛する作家が出会ったかけがえのない猫と飼い主たちとの物語。

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

人気作家7人によるアンソロジー『猫が見ていた』にも収録されています

 自らの体験に基づいて意見を述べれば、猫とは実に恐ろしい生き物だ。私はここで、自信を持って断言する。

 大学生の頃まで、私は自他ともに認める犬好きだった。自宅には間抜けな柴犬が一匹いたし、ご近所に飼われている犬たちとも大の仲良し。猫といえば、愛想のない巨大な野良猫たちが、犬と遊ぶ私を遠巻きにしているばかりだった。

 そんな生活が一変したのは、二十代半ば。稽古事の師匠が突如、猫を飼い始め、ご自宅にうかがうたび、嫌でもこいつと顔を合わせるようになったのだ。

 遠くからじーっとこちらを見ている癖に、急に近づこうものなら、脱の勢いで逃げて行く猫。柔らかい毛をわずかに触らせてくれたかと思った次の瞬間、笥の上に駆け上がって、毛づくろいを始める猫。

 なかなか胸襟を開かぬそんな猫を見ているうち、私はこいつをどうにか懐かせてやろうと思うようになった。猫好きになったわけではない。ただ本当にふとした気まぐれで、よし、こいつを手なずけてやれ、と考えてしまったのだ。

 そう、もうお分かりだろう。これが私の転落人生の始まりだった。

 男性は、自分にすげなくする女性をついつい追いかけてしまうという。私はまさにこの思考パターンにはまった挙句、猫に対して疑似恋愛をしかけ、結果、本物の恋に落ちてしまったのだ。

 あれから早十五年。今や私はすっかり、猫がいなくては生きていけぬ人間と化している。ふわふわでしなやかで、それでいてちょっとドジな愛すべき猫たち。気高く、孤高を愛し、しかし人の寂しさにふと寄り添ってくれる彼ら。一度虜になったら二度と離れられない彼らほど恐ろしい生き物が、果たしてこの世にいるだろうか。

 今回、編集者さんから「猫小説をご紹介いただけませんか」とのお声がけを受けて、私はつくづく、自分の本棚を眺め―そしてため息をついた。

 なんということだろう。その時々の興味の赴くまま本を買っているにもかかわらず、いつの間にか私の本棚には、明らかな「猫本」コーナーが出来ていたのだ。小説はもちろんのこと、猫写真集、猫マンガ、猫エッセイ。スポーツには微塵の興味もなく、セ・リーグとパ・リーグの区別すらつかない癖に、そにしけんじさんの『猫ピッチャー』が全巻揃っている事実には、正真正銘、目まいがした。

 しかし、それもしかたがない。猫が登場する本の中には、私同様、猫を愛し、猫に振り回されることを喜びとする人々が、必ず登場する。いわば「猫本」に出て来る人物は、もう一人の自分自身。そして書物の中の「私」がどんな猫に出会うかを楽しみに、私はきっと明日もまた新たな「猫本」を買い求めるのである。

猫小説リスト

>>#2へつづく

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