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猫と本を巡る旅──オールタイム猫小説傑作選

文: 澤田 瞳子

猫をこよなく愛する作家が出会ったかけがえのない猫と飼い主たちとの物語。

猫と本を巡る旅──オールタイム猫小説傑作選

人気作家7人によるアンソロジー『猫が見ていた』にも収録されています

 自らの体験に基づいて意見を述べれば、猫とは実に恐ろしい生き物だ。私はここで、自信を持って断言する。

 大学生の頃まで、私は自他ともに認める犬好きだった。自宅には間抜けな柴犬が一匹いたし、ご近所に飼われている犬たちとも大の仲良し。猫といえば、愛想のない巨大な野良猫たちが、犬と遊ぶ私を遠巻きにしているばかりだった。

 そんな生活が一変したのは、二十代半ば。稽古事の師匠が突如、猫を飼い始め、ご自宅にうかがうたび、嫌でもこいつと顔を合わせるようになったのだ。

 遠くからじーっとこちらを見ている癖に、急に近づこうものなら、脱の勢いで逃げて行く猫。柔らかい毛をわずかに触らせてくれたかと思った次の瞬間、笥の上に駆け上がって、毛づくろいを始める猫。

 なかなか胸襟を開かぬそんな猫を見ているうち、私はこいつをどうにか懐かせてやろうと思うようになった。猫好きになったわけではない。ただ本当にふとした気まぐれで、よし、こいつを手なずけてやれ、と考えてしまったのだ。

 そう、もうお分かりだろう。これが私の転落人生の始まりだった。


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