
- 2019.03.26
- 書評
ラテンアメリカとキューバ革命の壮大な叙事詩に仕掛けられた華麗なトリック
文:八木啓代 (音楽家、作家)
『ゲバラ漂流 ポーラースター 2』(海堂 尊 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ましてや、豪華客船に乗ったり、パナマの〈エスクエラ・デ・ラス・アメリカス〉米州学校ことSOAで、特殊訓練を受けたりもしていない。
ちなみに、米国の大量の外交機密文書を暴露したウィキリークスの創設者、ジュリアン・アサンジは、訴追を逃れて、二〇一二年からロンドンのエクアドル大使館内に匿われているが、実は、その先例となったのが、このアヤ=デラトーレだった。彼もまた、軍事反乱罪で訴追されたことで、コロンビア大使館に逃げ込み、一九四九年から五年にわたって保護されていた。
物語では、そこをなにも知らずに訪ねていったのが、ゲバラ青年ということになっている。
つまり、本書で描かれるラテンアメリカの姿の大半は史実に沿っているのだが、ゲバラ青年が、ラテンアメリカ史に名を残す著名人と、行く先々で遭遇するという部分の多くは創作というわけだ。とはいえ、こうした嘘が効果的に鏤(ちりば)められることで、読者は、当時のラテンアメリカ史の百鬼夜行の現場に立ち会うことができる。それと同時に、これらの、日本ではほとんど知られていないラテンアメリカの歴史的有名人たちの登場自体が、ゆくゆくは、キューバ革命からゲバラの死までを描いていくであろう、この壮大な叙事詩の、後の展開の重要な伏線ともなっていくのではないか。
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