書評

人間関係にある抑圧とエロスというタブーを怖れず描いた天才漫画家

文: 桐野夏生 (作家)

『月読 自選作品集』(山岸凉子 著)

『月読 自選作品集』(山岸凉子 著)

「木花佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)」

 木花佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)は美しい姫。姉の石長比売(イワナガヒメ)とともに、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に嫁ぐことになった。だが、石長比売は醜かったために、一人、実家に戻される。二人の父親は、木花佐久夜毘売は花のように美しいが命は短く、石長比売は岩のように長い命を保証しているのだから、二人一緒にいないといけないのに、と怒ったという。この作品は、神話を下敷きにして、自由に発想した物語である。

「典子」の三歳違いの姉、「咲耶」は神童のような存在だった。妹に「典子」という名を付けたのも、当時まだ三歳でしかない姉だった。「咲耶」という凝った名に対し、「典子」という平凡な命名をされた妹は、運命を決定づけられたような気がしている。実際、姉は妹を見下し、その進路も決めようとする。「典子」は、姉の支配から何とか逃れようとするのだった。

 美しい妹と、堅苦しく優秀な姉。あたかも「石長比売」が、「木花佐久夜毘売」に復讐を果たしているかのような、逆転した物語になっている。

月読山岸凉子

定価:本体780円+税発売日:2019年04月10日


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