- 2020.03.05
- インタビュー・対談
<今野敏インタビュー>警視庁vs.神奈川県警のパワーバランスを考える
「オール讀物」編集部
『清明 隠蔽捜査8』(今野 敏/新潮社)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
竜崎が神奈川県警刑事部長に
今野敏さんの人気シリーズ「隠蔽捜査」の第8巻『清明』が上梓された。
東大卒業後、警視庁に入庁した竜崎伸也は、極端なエリート主義者。個人の思惑は持たず、組織と国のために身を捧げるという信念で働く変わり者だ。家庭内の不祥事から大森警察署へ左遷されるも、これまで数々の事件を解決し、同僚からの信頼も得てきた。最新刊は、そんな慣れ親しんだ大森署から神奈川県警へと異動し、刑事部長に着任するところからスタートする。
「道府県警はどこも警視庁をライバル視していることが多いですが、神奈川県警はその最たるものです。警視庁と神奈川県警の対立構造は、オウム事件の捜査の過程で一般の人にも知られるようになりました。竜崎を神奈川県警に行かせたら、なにを仕出かしてくれるのか、面白くなると思いました」
今回の事件の発端は、東京都と神奈川県の境界線が入り組む地域、町田で起きた殺人事件。捜査本部は警視庁に置かれるが、神奈川県警も捜査に深く関わることになる。警視庁と県警のパワーバランスを考慮するなど、竜崎は大森署時代にはなかった煩わしさを経験する。竜崎が苛立ちながらも新しい職場にどう入り込んでいくのかが、読みどころだ。
殺人事件の被害者が中国人であることから、事件は公安も巻き込んで思わぬ方向へと転がっていく。タイトルの「清明」は中国の有名な漢詩。今野さんが「取材で中華街に行った際、食事をしたお店のテーブルに書いてあった」というこの詩が、どんな役割を果たすのかも楽しみに読んでもらいたい。
捜査で大きな役割を担うのが、神奈川県警OBの滝口という男だ。
「滝口は、こんな奴がいたらどうしよう、と思うくらい嫌なキャラクターです。とはいえ、竜崎は大森署時代、最終的には署のみんなから好かれるようになった“人たらし”。彼が厄介なOBとどう向き合うのか。戦うのか、丸め込むのか、僕もかなり考えて、力を入れた場面です」
殺人事件と並行して竜崎を悩ませるのが、家庭の問題だ。妻・冴子がドライビングスクールでの練習中に交通事故を起こし、長い間警察署に拘束されてしまう。竜崎は署に乗り込み解決を急ぐが……。
「竜崎というキャラクターを書く上で家庭の話は欠かせません。今回は、冴子さんがいかに良い妻であるか、よく分かるエピソードになりました。前から出ている娘の結婚問題も解決していませんし、家庭内の話は書くことがまだたくさんある。娘に関しては、絶対に結婚させたくないんですけどね(笑)」
こんのびん 一九五五年、北海道生まれ。二〇〇六年『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞受賞。〇八年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞をダブル受賞。