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<篠田節子インタビュー>恋愛から介護地獄まで――小説は、身近な人々との関わりから生まれる

<篠田節子インタビュー>恋愛から介護地獄まで――小説は、身近な人々との関わりから生まれる

「オール讀物」編集部

『恋愛未満』(篠田 節子)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

女と男の微妙な距離感

『恋愛未満』(篠田 節子)

「女男にかかわらず、自分にとって都合の良い面だけを集めた理想の相手などいるはずがなく、一人の人物が好感と失望の双方をもたらすのが普通ではないかと思います」

 作家生活三十年、今春には紫綬褒章を受章した篠田節子さん。新刊『恋愛未満』は、日常のなかに潜む、“恋愛”や“友情”といった一言では表現しきれない微妙な関係性を描いた短編集だ。

「アリス」「説教師」の二編は、とある市民バンド内の人間模様を描く連作短編。津田という男の姿が、様々な女性の視点から描かれていく。津田は長身で整った顔立ちと物静かな態度から、女性人気も高かったのだが、これまで浮いた噂はなかった。そんな彼が五十を過ぎ、ある女性に急接近しているという。だがその裏には秘密があった。

「誠実さや純粋さは、愚かさ、未熟さとワンセット。諸々を飲み込んだうえに、友人関係も恋愛関係も成立するのでしょう。長い人生のなかで、多くの葛藤を通して、意外なところで救われたり、失望したりしながら人と関わっていくのだと思います」

「マドンナのテーブル」は夫の交友関係に不満を募らせる専業主婦・美佳が主人公。夫がいつも行動を共にするメンバーにはひとりだけ女性が混じっており、美佳は夫と彼女の関係に不信を抱く。また、夫の仲間たちの関係は学生時代のような無邪気なものではなく、男性社会特有の気遣いのもとに成り立っていることにも気づいていく。

「企業文化に育まれた男性たちの思考パターンは、私にとってまさに異文化 です。『所詮、君たち女性には分からないと思うけどね』という言葉を聞くたびに、『いや、共感はしないけど、どのようなものか知りたいので、ぜひ教えてください』という気持ちでフィールドワークしています」

「夜の森の騎士」で描かれるのは、“介護地獄”。認知症の母親とどう向き合えばいいのか、娘の苦悩は日に日に深まっていく。

「病院でのエピソードは、母親の死と放射線技師とのロマンス以外、実母が入院したときの体験そのままです。私は能天気な親不孝娘です。病室で母の車椅子を乗り回して遊んだり、友人とメールしたりで主人公のように追い詰められることはなくて済みましたが。介護者にとって、この技師のように違う角度から物を言ってくれる外部者との交流は、閉塞した日常に風穴を空けるためにも貴重です」

 どの作品も「身近な人々との関わりのなかで生まれた」という本作。作中のどこかに自分と似た悩みを持つ人物を見つけ、楽しむことができるだろう。


(オール讀物6月号より)


しのだせつこ 一九五五年、東京都生まれ。九〇年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞。九七年『女たちのジハード』で直木賞、二〇一九年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。

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