- 2020.05.27
- インタビュー・対談
<薬丸岳インタビュー>人の命を奪った交通事故加害者は、二度とやり直すことができないのか?
「オール讀物」編集部
『告解』(薬丸 岳)
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
加害者大学生の視点で描くことに挑戦
少年犯罪や社会問題に鋭く切り込み、映像化された数々の作品でも注目されてきた薬丸岳さん。「もし自分の子供が人を殺してしまったら」というテーマに正面から向き合った『Aではない君と』では、吉川英治文学新人賞も受賞した。
「こういった題材を書くのはしんどいですし、特に贖罪については、『Aではない君と』で相当リアルに厳しいところまで突き詰めたので、もうあれ以上のものは書けないと思っていました。けれど、この作品に関して、実は作品の大きな骨格や登場人物の行動の動機の部分、ラストまで、一晩ではっきりとアイディアが浮かびました。こんなことは作家になって初めてのことです」
本書の主人公・大学生の籬(まがき)翔太は、飲酒運転による深夜のひき逃げで、ひとりの老女の命を奪ってしまう。保身ゆえ裁判でも偽りを繰り返し述べ、下された判決は懲役四年を超える実刑判決だった。
「これまでも加害者が主要な人物の話は書いてきましたが、今回やりたかったことの一つが、あえて〈加害者の視点〉で描くことです。ただ、その心情を読者がリアルに感じられるようにしたくても、こういう事件を起こした加害者は、その未来が苛酷になることは容易に想像できるわけで、自らを守ろうと色んな言い訳を並べ立てるんですね。それは周囲から見れば自己保身の身勝手な思考にしかとられない。だからといって、罪を犯した人間は絶対に悲劇に向かうしかないのか……たとえ罪深い人間であったとしても、やり直しができるということに説得力をどれだけ持たせられるかが、非常に難しかったです」
さらに、被害者の夫である法輪二三久(のりわ・ふみひさ)は、〈ある思い〉を秘めて、翔太の出所を待ち続ける。そして出所後、なんと翔太の借りたアパートのふたつ隣の部屋を借りることに――。
「妻を殺してしまった男への憎しみは、当然、誰もが考えるように大きいと思います。けれど、法輪には法的に裁かれることはなかったものの、心の中に長年の大きな負い目があり、それが年老いた彼を突き動かしていく。一方、司法が与えた刑期を終えても、決して償いきれない人の命を奪ったという罪の重さに、翔太がどう向き合うことになるのか。これまでも登場人物たちの感情に迫れるように努めてきましたが、『告解』ではスリリングな展開とともに、ラストはより希望が感じられるものを意識しました。さらに一歩先へと進んだ小説になっていると思います」
やくまるがく 一九六九年兵庫県生まれ。二〇〇五年「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞受賞。一七年「黄昏」で日本推理作家協会賞短編部門受賞。『友罪』『死命』ほか著書多数。