インタビューほか

直木賞候補作家インタビュー「片田舎で暮らす少女の過酷な運命」──遠田潤子

インタビュー・構成: 「オール讀物」編集部

第163回直木賞候補作『銀花の蔵』

『銀花の蔵』(遠田 潤子)

「私自身が地方に住んでいることもあって、これまでの作品でも、田舎の古い伝統や人間関係、家族関係に苦しむ人々を書いてきました。私の小説の大事なモチーフのひとつです」

 遠田潤子さんの最新作『銀花の蔵』は、奈良で油蔵を家業とする旧家を舞台に、山尾銀花という少女の波乱万丈な半生を描いた物語だ。

「私の母の実家が能登の山深いところにあり、小さな蔵もあるような田舎だったので、蔵にはノスタルジーを感じます。宮尾登美子さんの『藏』という作品が好きでしたし、蔵モノをいつか書いてみたいと思っていました」

 銀花の父は一五〇年間続く油蔵の長男。跡を継ぐことなく大阪で自身の夢を追いかけていたが、生活のため家族を連れて故郷に戻ることになる。そしてゼロから油造りを学ぼうとするものの、心のなかでは夢を諦めきれず、いつまでたっても仕事に身が入らない。銀花の母も問題を抱えており、家に馴染むことができず、一家の生活は苦難の道となる。

「ダメな人ばかりが出てくる物語です。銀花の父も母も一般的には褒められる人間ではないと思います。でも書いていて不思議と嫌いにはなれなくて。おそらく、私自身がダメダメな人間だからだと思うのですが……。昔から自信たっぷりな人よりも、後ろ向きで生きている人や失敗してしまう人に感情移入することが多いです」

 蔵の長でもある銀花の祖母は、家父長制の下で生き、戦争も経験している。夫亡き後、自分の手で蔵を切り盛りしてきたという自負心があり、“家”への執着も強く、銀花の両親と折り合いが悪い。銀花はそんな家族のあいだに立ち、苦労を重ねる。また、近所や学校でも、とある事情から白い目を向けられてしまう。

「銀花は度重なる苦難に遭いますが、持ち前の明るさを武器に、常に前向きに『色々あるけど仕方ないや』と笑って生きています。とても強くてたくましい女の子なのですが、これは私の理想の姿を投影しているんです」

 物語の中盤、山尾家は血縁関係が複雑であることが明かされる。銀花はその事実に衝撃を受けるが、家族のかたちは“血縁”だけが正解ではないということにも気づいていく。

「最終的に銀花は家庭を持ちますが、それは“血”ではなく互いに対する“好意”で結びついた関係性で出来ています。煩わしいのならば、血のつながりを捨ててしまってもいいし、血縁に縛られる必要はないと思うんです。もっと自由に生きていいんだよ、という気持ちを込めた作品になりました」

遠田 潤子(とおだ・じゅんこ)

1966年、大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。

17年 『冬雷』で未来屋小説大賞を受賞。『オブリヴィオン』は「本の雑誌 2017年度ノンジャンルのベスト10」第1位に輝いた。


第163回直木三十五賞選考会は2020年7月15日に行われ、当日発表されます

(オール讀物7月号より)


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