第六二回メフィスト賞を受賞した『法廷遊戯』は、驚きの仕掛けと緻密な語りで一気読み必至のリーガルミステリーだ。今作がデビュー作となる五十嵐律人さんは、現役の司法修習生でもある。五十嵐さんは、「法律の面白さを伝えたい」という思いで執筆に臨んだという。
「大学進学の際は特に目的もなく法学部に入ったのですが、法律って学んでみると面白い。条文で始まり条文で終わるので、感情論が入る余地がないまま論理で物事が進むのがとても心地よかったんです。僕は法律を学ぶことで世界との向き合い方を知りました。ただ法律の条文は専門用語で書かれているので、訓練なしに理解することは難しい。でも小説の形にしたらこの面白さを多くの人と共有できるのではないかと考えました」
物語の舞台はロースクールだ。法曹の道を志すロースクール生の久我清義と織本美鈴。ある日彼らの“過去”を暴露する紙が配られ、それをきっかけとして二人の周りで不可解な出来事が起こるようになる。“犯人”は何の目的で彼らの過去を暴こうとしているのか――。途方に暮れた清義が相談を持ち掛けたのは、大学在学中に司法試験を突破した“天才”結城馨。三人はそれぞれに真相を追うが、その中の一人が命を落としたとき、事件はまったく別の顔を見せることになる。
「法廷のルールにのっとってエンタメ作品にするのが本当に大変でした(笑)。この小説では法律上の“罪”がテーマになっていますから、その前提となる法律に関して嘘をつくことはできないなと。刑罰を加えるということは、法廷で厳格な手続きを踏んで初めて可能になることなんです。これから法律家として活動していく身でそこを偽るわけにはいかないと、歯を食いしばって法律の制約の中で物語を紡ぎました」
解決不可能と思われた謎に論理的な結末がもたらされる。そんな本格ミステリー的な読み味が魅力の作品ではあるが、本作をもう一段味わい深くしているのは、脇役に至るまで個性的な登場人物たちのドラマだ。法廷で謎が解かれるとともに、登場人物たちの隠された人間関係が浮き彫りになる過程もまたスリリングである。
「ことさらに人間ドラマを描こうとしたわけではありません。むしろ小説を書き始める段階では大まかなストーリーの骨格があるだけで、登場人物のことはほとんど考えていなかった(笑)。ただ僕の考えでは、人が罪を犯す以上、そこには何らかの事情があるに違いないと思うんです。それを自分が納得できる形で突き詰めていった結果、現在のような形になりました」
司法修習期間は約一年。それを終えたら五十嵐さんは、法律家と小説家、二つの顔を持つことを決めているという。
「まず司法修習の後は、刑事事件に積極的に取り組む弁護士になりたいと思っています。弁護士は、たとえ依頼者が無茶な主張をしていても寄り添っていく仕事です。そうやって必ずしも正しくないかもしれない声を司法の場に届けるのも社会正義の一つの形なんじゃないかと。また執筆の方では二作目の準備をしていて、テーマは少年犯罪です。少年事件は特殊な世界で、更生できることを前提に審判するので、罪を犯した少年の生い立ちや家庭環境を重視するんです。司法修習を受ける中で少年事件の審判を見て、刑事裁判以上に一人の人間と向き合う姿に感銘を受けました。少年犯罪を扱うことで、なぜ人は罪を犯すのか、という人間の不合理さに迫ることができるのではないかと思っています」
いがらし・りつと 一九九〇年岩手県生まれ。東北大学法学部卒業。司法試験合格。『法廷遊戯』で第六二回メフィスト賞を受賞し、デビュー。




