
- 2025.06.12
- 読書オンライン
好きなことをマネタイズするには“悪魔との契約”が必要!? 人気クリエイターが今だから明かす、私たちが“ゼロから這い上がった”方法
フジワラヨシト,あんじゅ先生
フジワラヨシト×あんじゅ先生(若林杏樹)
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
初著書『コネ、スキル、貯金ナシから「好き」を仕事にするまでにやってきたこと』が話題のイラストレーター・フジワラヨシトさんと、数々のビジネス系ヒット作で知られる漫画家・あんじゅ先生とのスペシャル対談が実現。フリーランスのクリエイターとして生きていくための秘訣を存分に語り合った。
◆◆◆◆

ゼロから出発した二人の共通点
フジワラ 本日はゲストとしてお越しいただきありがとうございます。以前からあんじゅ先生の精力的なお仕事には感銘を受けてきたのですが、初めての対談すごく楽しみです。
あんじゅ こちらこそお招きいただき光栄です。まず定番の自己紹介をやらせてもらうと、“昭和が生んだ天才美少女漫画家”あんじゅ先生です!! よろしくお願いします。
フジワラ じつは私とあんじゅ先生には共通点があって、私は最初お酒の営業職をしていて、イラストやデザインとはまったく関係のない会社員として働いていたんですね。2020年、適応障害になったことを機に会社を辞めて、フリーランスのイラストレーターとしての活動を開始しました。
もともと勤め人で、無い無い尽くしのゼロから出発して、SNSを駆使して仕事の活路を開いてきたところが、あんじゅ先生と似ているように思います。
あんじゅ 私は大学を卒業後、そのまま母校の大学に正規の職員として就職し、5年ほど入試関係の仕事をやってたんですね。そろそろ大学をやめて別のことをしようと思ったとき、絵や漫画を描くのがずっと好きだったから、イラスト描こうかな?って始めてみたんです。
本当に何もわからないままフリーランスになって、知り合いの編集プロの女社長に絵の仕事がないかと思って連絡したら、「イラストの仕事はないから自分で記事書いてそこに絵をのっけろ」って言われて(笑)。当時、貯金はゼロ円で、ライターとして一記事2000円のコラムを毎日毎日書いて、絵をつけるところからスタートしました。

大学を辞めてから10年、なんとかここまでやってこれたわけですが、フジワラさんの著書では、まったくゼロの状態からどうやってブランディングしたかが惜しみなく書かれていてびっくりしました。私なら、自分が苦労して編み出したテクニックは明かしたくないですよ!
フジワラ 私はやっと5年目でまだまだですが、どのあたりでそう思いました?
手塚治虫のように全部オープンにしていて…
あんじゅ 漫画とイラストレーターの違いもあると思うんですけど、漫画って自分をキャラ化してブランディングしやすいのに対して、イラストでSNSで人の注目を集めるのはめちゃくちゃ難しいでしょ。
でもフジワラさんは、先輩イラストレーターたちの歴史を踏まえつつスタイルを確立して、わずか2年くらいで、階段を一気に駆け上がるようにフォロワーを急増させましたよね。イラストのテクニックから自分がどうSNSに向き合ってきたかまで全部オープンにしていって。
そこでふと思い出したのが、手塚治虫でした。手塚治虫先生は漫画の描き方や、背景の工夫とか、いろんなキャラクターの作り方とか全部書いて残してるんですよ。天才が後世のために全部内容を公表してくれている。そのイラストレーター版が本書じゃないかなと思ったくらい、クリエイター初期段階で大きな支えとなる、長く愛される一冊になると思いました。「こうすれば皆さんできますよ」ではなく、「私はこうやって苦しんで実践してきたよ」という伝え方も魅力的で。
フジワラ ありがとうございます。一枚10円の似顔絵描きとして全国を放浪したし、サラリーマンもメンタルを壊して続けられなかったし、本当に紆余曲折ばかりの人生を送ってきたので、自分のやってきたことが誰かの後押しになればと思って書きました。
美少女系のイラストから動物の絵に転身
あんじゅ そうやってイラストレーターを目指す方をはじめ、広く多くの人へ絵について伝えようと思ったきっかけは何かあるんですか?
フジワラ やっぱり絵を見てくれる方々はイラストに興味がある人ばかりじゃない、と長年感じてきたからです。イラストに興味のある人だったら、これは何を描こうとしているんだろう、どんな意図でこういう構図や色使いにしているのだろうと想像してくれますが、実際はそうでない人が大多数。だからいい絵を描くだけでなく、その意図を言語化して伝える努力も必要だと思っていて。
あんじゅ 私なんて毎日、一生懸命、可愛い顔ネタでツイートしてフォロワー5万人台なのに、その志で9万人超とは!(笑)。まず初期段階でどう作品をブランディングしていくかを掘り下げていくと、最初すごく絵柄に迷いませんでしたか?
フジワラ はい、すごく迷いました。絵柄に幅があって何でも描けたほうが有利ですし、ある程度得意なところに絞るのも手です。ただ、結局はクライアントが求めている絵柄や、必要とされるモチーフという需要によって、ある程度絞られてくる側面も大きいと思います。
私がフリーランスになる前は、いわゆる美少女のイラスト、アニメキャラみたいな感じのイラストを描いていたんですが、その路線では勝ち目がないと気づきました。美少女系イラストは描かれる方がすごく多くて技術勝負ですし、供給の割には需要がそれほど多くない。
では、どういうところなら多くの人に見てもらえるのかを考えたとき、私の界隈では動物の絵を描く人はほとんどいなかったので、児童向け書籍や広告の分野に絞ってマーケティングを戦略的に行ったことが、いまの作風につながりました。あんじゅ先生はどうブランディングを意識されましたか?

「また明日から頑張ればいいよ」©フジワラヨシト
女体盛り企画!? 駆け出しのころのあんじゅ先生秘話
あんじゅ 先にお伝えしたように記事コラムが出発点で、女社長には「あなたこの連載10回やりなさい。それを実績にして営業に行ったらいい」と言われたので、それが最初の営業ツール。あと当時ライターの世界ってけっこうアングラで、女性はあまり本名で活動しないほうがいいと言われてて、姓名判断でめちゃくちゃ画数がいいペンネームを考えました。若林は本名なんですけど、杏樹がペンネーム。これは「大大吉大大吉」みたいなものすごく良い画数なんですよ(笑)。
この姓名判断最強のペンネームと、小さなコラムの実績がブランディングの第一歩でした。
フジワラ めちゃくちゃしっかりされてますね!
あんじゅ いえいえ、当時はアングラな仕事もやらされて手探りで……、ライターなのにグラビアやったり、なぜか女体盛りの企画まであって! 反響の大きかった女体盛り企画で全国行脚したらどうかと勧められましたが、さすがにそれは断りました。ブランディングを間違えなくてよかった(笑)。

フジワラ 今だからこそ明かせるすごく面白い秘話ですね。ブランディングに関していうと、私の場合、前職のお酒を売る仕事が役立ったんです。酒蔵さんから仕入れたお酒を飲食店に卸す仕事でしたが、実は日本酒ってプランディングがうまいところと下手なところの差が激しい。
上手なところは自社の蔵がこういうストーリーを持っていて、こういう醸造でやっていますと魅力的に発信されている。でも、多くのご高齢の方はうまくできないので、自分が代弁して蔵元のストーリーを作って売り込んでいました。その経験がイラストレーターとして独立したときにも、作品をストーリーとして伝えてブランディングすることに繋がりました。
「好き」のマネタイズには“悪魔との契約”が必要!?
あんじゅ 酒蔵さんの宣伝下手なところを自分のクリエイティブで助けるって、すごくいい。それってクライアントワークの基礎ですよね。ここでひとつ伺いたいんですけど、自分の好きなことを仕事にしようとするとき、マネタイズの問題から逃げられないじゃないですか。そこで一番大事なことって何だと思いますか?
フジワラ 本書では、まず覚悟を決めることの大切さを書きましたが、もう少し突き詰めていうと、それは“悪魔との契約”みたいなもの。世間からしたら、別に私たちが好きなことをしたいかどうかなんて関係ないでしょ。でもそこで「あなたは好きなことで食べていいよ」と譲歩してもらうためには、なにかを犠牲にしなくてはいけない。
私の場合なら、イラストをたくさん描けるタイプの人間ではないので、一枚のイラストに対して尋常でない熱量をかけるとか、SNSでの発信でもやれることはすべてやるとか。

あんじゅ なるほど。私は好きをマネタイズするうえで、最初に決めるべきは、どの段階に行くことを目指すのかだと思っています。普通の仕事をやりながらプラスαの副業レベルでいくのか、フリーランスでなんとか食べていきたいのか、あるいはジャブジャブお金が使えるような金持ちを目指したいのか?
マネタイズって別にどんな手段でもいいと思っていて、例えば旅行好きな人がマネタイズしたかったらJTBに就職すればお金に変えられるわけだし、絵を描きたいなら広告系の会社に入る手もあるし、漫画を読むのが好きだったら、本屋で働いたっていい。
人間、休みの日は家でゴロゴロしてたいなとか、あまり根詰めて働きたくないなとかいろいろあると思うけど、漫画を描くのが大好きで本気でめちゃめちゃ金を稼ぎたいのなら、ヒット漫画家になるしかないなと、超えるべきハードルが決まってきます。「好きなもの」プラス「自己分析」で、自分が何をどのくらいのマネタイズをしたいかを定義するのが重要だと思っています。
フジワラ まさしくその通りです。自分が本当のところどう働きたいのかを考え抜いたうえで、それがフリーランスの道なら覚悟を決めて飛び込む!
新米フリーランスに付いてまわるお金の罠
あんじゅ そのとき現実的にはやっぱりお金の問題がついてまわるわけですけど、新米フリーランスがつまずきやすいお金の罠とか失敗、フジワラさんにもありました?
フジワラ それまで会社員としてしか働いたことがなかったので、フリーランスのお金のキャッシュフローをあまり理解してなかったんですよ。制作期間が短いものなら1ヶ月後に振り込まれますが、長いものだと3ヶ月後とか、下手したら6ヶ月後とかになってしまうことってけっこうありますよね。その期間のお金の工面に苦労しました。
あんじゅ わかります。私も大学職員からフリーランスになったので、定期収入がなくなって、住民税や社会保険など、それまで会社が半分払ってくれたものの税負担がかなり上がってびっくりしました。私は独り身だからまだ良かったんですけど、ご家族の扶養とか保険の問題、住宅ローン審査など社会的な信用の問題なども、フリーランスが直面する落とし穴ですよね。
フジワラ それに備える素晴らしい本がありますよね。あんじゅ先生のベストセラー『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』。
あんじゅ 税理士の大河内薫さんとのタッグで作った本ですが、賢く節税できるし、インボイスにも対応している最新版なので、「金のお守り本」としてみなさんにご活用いただけると嬉しいです。

フジワラ 私ももっと早く出会っておきたかった一冊です。じつはnoteを始めたのも、ある時期大きめの案件を抱えていて、キャッシュフローをどうするか困ってしまったのがきっかけなんですよ。noteなら、その月の売上が翌月すぐ入ってくるから当座のしのぎになって。
SNSのフォロワー数が大きく伸びたきっかけ
あんじゅ フジワラさんはそこでファンコミュニティをしっかり形成されましたし、こうしてnoteでバズったコンテンツから本も生まれて、SNS戦略が巧みですよね。私と似ているところもあるなとずっと感じてきたのですが、せっかくの機会ですし、どうやってSNSを育ててきたか伺いたいです。
フジワラ 当初、Twitterのフォロワーは200人ほどの弱小アカウントで、自分の作品を載せてもそれだけでは全然見てもらえないんですね。だから初期段階ではもう泥臭く、自分が好きな有名イラストレーターさんの投稿をコツコツ引用リツイートしていました。
最初に2000人ぐらいまで増えたきっかけは、ある先輩イラストレーターさんがnoteにイラストの練習方法をアップされていて、その感想をnoteに書いたら御本人が「作品いいですね」って感じでリツイートしてくれたんです。のちにそのイラストレーターさんがご近所に住んでいることがわかって、リアルな交流も生まれて、運命を感じました(笑)。
あんじゅ 私の場合、最初に大きくフォロワーが増えたきっかけは、ゆうこすさんが出版イベントを渋谷でやったときのこと、「ハッシュタグ〇〇でシェアしてね」みたいな呼びかけがあったんですね。iPadを持参していた私は、その場でイベントの感想を漫画にしてリアルタイムでアップしたら、それをゆうこすさんがシェアしてくれた。巨大アカウントの人がシェアするとそのフォロワーさんたちがけっこう流れてきてくれるし、広告代理店の人も見てるんですよ。

これはみなさんにもお勧めの、再現性の高い方法です。ただし、好きなインフルエンサーでも、その人のタイムライン見て自分のことしかツイートしない人だったら応援は見込めず「いいね」だけで終わってしまうので、そこは見極めたほうがいいと思いますが(笑)。
フジワラ 素晴らしい作戦! 相手がしてほしいことをすることが大事ですよね。
好きを突き詰めた先に何かにつながる
あんじゅ あと新米のころ、ホリエモンと仕事したいなと思ったんですよ。そこで、堀江貴文さんの『多動力』を勝手に四コマ化して投稿したら、「編集者つけてやったほうがいいよ」って堀江さんがリツイートしてくれたりして、その後ちょくちょく反応をもらえるようになったんです。それが数年後、『堀江貴文のChatGPT大全』という本に結実しました。
駆け出しの頃って、まだ自分はプロじゃないからと遠慮される方が多いけれど、どんどん自分のことを知ってもらって、応援してくれる人をつかまえることが大切だと思います。
フジワラ 行動力が素晴らしいですね。情報発信のやり方はいろいろありますが、好きを仕事にするうえで、自分の根源的な好きをひたすら突き詰めていくのが、クリエイターとしてチャンスを掴むうえで何よりも大切なことだと感じています。好きを突き詰めていった先に絶対何かにつながることを信じて、チャレンジしていってほしいなと思います。
あんじゅ 何かを好きっていう気持ちは、小さい頃から持ってる人ってたくさんいると思います。どうやったら好きなものをお金にできるのか、自分のブランディングやSNSの作戦を懸命に考えるって、とても素敵なことだと思うんですよね。フジワラさんの本、すごく刺激になるので本当にみなさんに読んでいただきたいです。
フジワラ 今日は貴重な機会を本当にありがとうございました。
あんじゅ こちらこそ、ありがとうございました!
(TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEにて)
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