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「自分らしいアウトプットをどうやるか?」悩む人に贈る“体ひとつ”で社会に新しい流れを生む方法

「自分らしいアウトプットをどうやるか?」悩む人に贈る“体ひとつ”で社会に新しい流れを生む方法

龍崎 翔子,辻 愛沙子

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 新しいセンスのラグジュアリーホテルから、産後ケアリゾートなどの社会性の高い事業まで、業界に風穴をあけるホテルプロデューサー・龍崎翔子さん。初の著書『クリエイティブジャンプ』の刊行を記念して、盟友のクリエイティブディレクター・辻愛沙子さんと語り合った。

◆◆◆

龍崎翔子さん(左)と辻愛沙子さん 撮影・榎本麻美(文藝春秋)

大学在学中にキャリアをスタートした二人

龍崎 今日は、年がほぼ同じの友人で、同志ともいえる辻愛沙子さんをゲストにお招きしました。仲がいいのにこうして公の場で対談するのは初めてで、すごく楽しみです。

 出版おめでとうございます! お声がけとても嬉しいです。ふたりとも大学在学中にキャリアをスタートしていますが、はじめて龍崎さんを知ったのは今から8年ほど前、テレビで「北海道でペンション経営をしている東大女子」として取り上げられていたのがきっかけでした。すごい人もいるもんだなぁというのが第一印象。

龍崎 当時、変なことをやっている東大生をひな壇に並べておくのがすごく流行ってたんですよ。社内に辻さんの大ファンがいて「翔子さん、凄い人がいますよ」って教えられ、HOTEL SHE,KYOTOをリニューアルオープンしたときにお招きしたのが最初の接点でした。その時、ロビーに置いてあったピンクのベロアのソファを褒めてくれたのを覚えています。

 すごく素敵なソファで、生地の型番を聞いたほど(笑)。

 まず、新著の推しポイントから語らせてもらいますが、クリエイティブって言語化が難しく、属人的に「この人だからできる」と思われがちな領域ですが、明晰に体系立てて、どういうプロセスとロジックでこのアウトプットが生まれたのかが書いてあって非常に学びがありました。

 説教臭さや資本主義的なガツガツ感が一切なく、龍崎さんならではの気の利いたフレーズが沢山あって、「美意識のある」珍しいタイプのビジネス書。著者の人格が手に取るように感じられる文体で、すごく刺さりました。

龍崎 ありがとうございます。もともと「GENIC」というウェブ媒体でエッセイを連載していたこともあって、初の本をビジネス書として出すにあたっても、著者の手触りのようなものを大事にしました。

龍崎翔子氏

「ビジネス」と「美しい世界観をつくる」はざまで

 たとえば、土地の空気感をいかに伝わる形で言語化するかきっちり方法論を示したあとに、コラムでさらりと「空気感を言語化することの功罪」を書いてたりするんですよね。

 私の広告クリエイティブの仕事では、みんながモヤモヤと感じているものを、わかりやすく誰もが理解できるものに言語化していますが、一方で、「言語化しすぎな時代」だとも感じています。SNSならバズらせたもの勝ちみたいな風潮の中で、すべてを言語化することで逆に平坦になってしまう世界線もあると思う。

 もちろんそれは二項対立的な話ではなく、言語化のメリットもあります。龍崎さんは「ビジネスの視点」と「美しい世界観をつくる視点」のあわいのグラデーションの中で、考え抜いていますよね。

龍崎 私は地方創生にかかわるプロジェクトにもいくつか関わってきましたが、こうすれば土地の空気感が言語化できますとか、魅力をキャッチーに伝えられますといったわかりやすい方向に流れていくことのデメリットもすごく感じています。こと観光業は支配関係が生じやすい分野だと思っていて、〈観光する主体〉〈客体としての地方〉の関係で開発されると、宗主国と植民地みたいな構図になりやすい。

 グアムのようなリゾート地の歴史ですよね。

グアムのリゾート地 ©AFLO

龍崎 そう。経済的な支配関係、お金を払っている側が対価としてのサービスを受けるのは当然だよね、みたいな資本主義の論理が人の生活圏に入っていく。そんな観光業がもっている原罪みたいなものに、無自覚であってはいけないと感じています。

 地域の文化に向き合ってビジネスをする際のそういう誠実さはすごく大切で、少し話を広げると、昨今社会課題領域でビジネスをする試みが増えてきました。それ自体は素晴らしいことだと思いますが、痛みを抱えた当事者たちを「消費」しているように感じることもあります。

 引きの目でみたときのソーシャルイシューの中に、寄りの目でみて一人ひとりの痛みがあることを決して忘れてはいけないと思う。例えば2023年のジェンダーギャップ指数125位の日本では、上場企業の女性役員の割合はこの4年でようやく2桁台、13.4%になりました。数字だけみればわずか数年で改善したともいえますが、男性役員ばかりに囲まれた環境下で圧倒的マイノリティとして女性がいても、当人の良さを発揮しづらいでしょう。どんなテーマ、題材に取り組むときも、数字の向こう側で、誰かが痛みを背負っていることに自覚的でありたいと思っています。

自分自身のパーソナルな課題として捉える

龍崎 すごくわかります。社会課題に関していうと、私自身は「社会課題」という言葉って曖昧でつかみどころがなく、「架空の誰か」が苦しんでいる感じがしてしまうんですよね。

 だから、社会課題という課題はなく、むしろ「あらゆる社会課題は誰かの個人的な課題である」と思うようにしています。たとえば産後、親に頼れなくてすごくしんどいという人たちがいたら、自分が将来その当事者になるかもしれない「if」の世界として、自分自身のパーソナルな課題として捉えられる解像度を持っていたい。産後ケアリゾート「HOTEL CAFUNE」をつくったのも、まだ子どものいない脳天気な自分が、未来の自分を助ける気持ちでやったことです。

 それ、めっちゃいい話。

辻愛沙子氏

龍崎 あと最近、「やわらかい旅行社」という、摂食嚥下障害がある人が旅に行けるようにするためのプロジェクトもやっているのも、今まわりに当事者はいないけれど、もしかしたら30年後とかに、自分や家族がそういう状況に陥っているかもしれない――どこかのパラレルな世界線にいる自分を助ける気持ちで取り組んでいます。

 「if」の自分を想像する感覚ってすごくわかるし、私は今年29歳になりますが、歳を重ねるごとに、いろんな痛みが世の中にはあることへの解像度がすごくあがってきたんですよ。会社をやっているといろんな修羅場があるし、出会う人もいれば、別れる人もいて、いままで気づきもしなかった社会の痛みや課題に目を開かれて。

「選挙割」キャンペーンというクリエイティブジャンプ

龍崎 辻さんはこれまで、クリエイティブの力で社会課題にアプローチする試みをいろいろされてきましたよね。ブランディングを手掛けたタピオカ専門店「Tapista(タピスタ)」で行った「選挙割」とか。選挙にいって投票済証明書をもってタピスタに行くと、ドリンク全品「半額」になるキャンペーンにはびっくりしました。

タピスタの「選挙割」キャンペーンのポスター

 あれは若い世代の投票率アップをねらって2019年の参議院選挙で行った施策で、当時ちょうど報道番組の「news zero」に出始めて、「こんな若い女の子に政治のこと語らすな」みたいな風あたりも強かった中、政治って本当は私たちの生活と地続きなのに、そこがすごく線引きされているように感じたんですね。タピオカを飲むような若い人たちと政治を橋渡しする何かをしたい、つまり一見関係ないと思われているものをアイディアによってつなぎたかった。

龍崎 それこそがまさに「クリエイティブジャンプ」なんですよね。クリエイティブジャンプとは、課題を一気呵成に解決する「非連続な思考」の技術を指しますが、辻さんの打ち手はその5つの軸にぴたりと当てはまります。

 1つ目は「アセット(資産・資源)の再定義」。タピオカ屋といえば若い女性が行く場所という一般的なイメージを読み替えて、「政治に声が反映されづらい有権者たちが集まる場所」と新しい価値を再定義しています。

 2つ目の「時代の空気感を言語化する」は、タピオカ飲んでるような若い女が政治に口を出すなんて生意気だ、みたいな時代の空気を踏まえたアンチテーゼとしての企画になっている。

 確かに!

龍崎 そして3つ目「インサイトを深掘りする」においては、世の中では「若い世代の人たちは政治興味ないでしょ?」と思われているけど、実は「投票に行った方が格好いいよね」というカルチャーが潜在的にあった。ただ表立って政治的な話をすると、「痛い奴」「意識高い」みたいな見られ方をしてしまって言いづらい。でも本当は政治に対する意思表示も気軽にしたいよねという潜在的な心理を刺しにいっています。

龍崎翔子氏

 4つ目の「異質なものをマッシュアップする」、選挙とタピオカという対極にあるものを一緒に組み合わせることで意外性“常識に対する裏切り”を生んでいます。

 そして最後の「誘い文句をデザインする」という観点から見てもすぐれた施策で、要するにすごくメディアが取り上げやすいんですよね。2行でインパクトのある記事タイトルを書ける内容だし、友達に説明するときも「渋谷のタピスタに投票済証を持ってったら、半額になるらしいで」「まじ? 行こう」って、日常のナラティブにのりやすい。

 ということで、最高のクリエイティブジャンプの実践例なわけです(笑)。

 ありがとうございます! 意識的にやってきたことと、無意識にやってきたことが混在してるんですが、すごく学びになる指摘です。

 とくにナラティブにのるって大事なことだと思っていて、世の中にすでに存在しているけど可視化されていない欲求って沢山ありますよね。たとえば「保育園落ちた、日本死ね」というブログ、インフルエンサーでもなんでもない、待機児童を抱えたいちお母さんの悲痛な叫びが世の中の同様の声を呼び覚まし、結果、国会まで動かした。

辻愛沙子氏

 選挙に関しても、「選挙行こう」と言われるよりも、「タピオカ半額になるなら行こうよ」というほうが友達を誘いやすい。そういう「行動に繋げやすい芽」に水をやることは意識していますね。

いかに「人に言いたくなるコンテンツに設計するか」

龍崎 私も仕事をしている中で、「発信上手ですね。SNSの活用法を教えてください」みたいな問い合わせをよくいただくのですが、私たちがやっている施策って、いかに「思わず発信されるものをつくるか」に力をおいています。プロダクトが出来上がったところからどう伸ばすかよりも、サービスや商品を開発する段階で、いかに「人に言いたくなるコンテンツに設計するか」が鍵だと思う。

 例えば金沢のスモールラグジュアリーホテル「香林居」では、思わず人に語りたくなるフックをいくつも作っています。手前味噌ですが、「こないだ泊ったホテル、エントランスにすごい蒸溜器があってさ、金沢で採れた草で蒸溜して、その水でサウナでロウリュとかができるの」「しかも屋上にもサウナあって、金沢の街並みが一望できるんだよね」みたいに、人に体験を説明しやすいんです。

香林居のエントランスにある巨大な蒸溜器 ©水星

 人によって刺さるポイントは違うので、サウナ好きなら地元の草木の蒸溜水を使ったサウナの話をするだろうし、美容に興味のある人だったらこだわり抜いた地産地消のアメニティブランドに目がとまるだろうし、グルメな人だったら台湾の星付きのレストランの料理について話してくれると思う。どのフックからでも説明しやすい状態を予めつくっておく。PRまで含めた企画戦略でクリエイティブを捉えているのが私の特徴かもしれません。

 このようにクリエイティブって体系化できて再現性があるし、そこに実践する人のオリジナリティが乗ると素晴らしいものが生み出されていく。今日の話も本書も、とくに自分らしい仕事のアウトプットをどうしたらいいか悩んでいる人たちに大きな助けになると思いました。

龍崎 自分の体ひとつで、社会の中でいかに新しい流れをつくっていくかにフォーカスして書いたので、仕事の壁にぶつかったことのあるすべての人にお役に立てると嬉しいです。刺激的な対談をありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました!

(青山ブックセンターにて)

『クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術』龍崎翔子 著(文藝春秋)

龍崎翔子(りゅうざき・しょうこ)

1996年生まれ。ホテルプロデューサー、株式会社水星代表取締役CEO。東京大学経済学部卒。2015年、在学中に株式会社L&Gグローバルビジネス(現・水星)を設立し、北海道・富良野でペンション運営を開始。その後、関西を中心に、ブティックホテル「HOTEL SHE,」シリーズを展開し、湯河原、層雲峡をはじめ全国各地で宿泊施設の開発・経営を手がける。クリエイティブディレクションから運営まで手掛ける金沢のスモールラグジュアリーホテル『香林居』がGOOD DESIGN賞を受賞。ホテル予約プラットフォーム『CHILLNN』や産後ケアリゾート『HOTEL CAFUNE』など、従来の観光業の枠組みを超え、〈ホテル×クリエイティブ×テック〉の領域を横断し、独自の事業を展開する。

 

辻愛沙子(つじ・あさこ)

株式会社arca代表取締役/クリエイティブディレクター。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より2024年3月まで、報道番組「news zero」にて水曜パートナーをレギュラーで務める。多方面にわたって、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。

単行本
クリエイティブジャンプ
世界を3ミリ面白くする仕事術
龍崎翔子

定価:1,760円(税込)発売日:2024年03月13日

電子書籍
クリエイティブジャンプ
世界を3ミリ面白くする仕事術
龍崎翔子

発売日:2024年03月13日

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